17 本気っすか、まりやさん。
まりやさんを近くの中華屋さんに誘って、仕事を終えたばかりのまりやさんと乾杯をする。
「松岡、カンパーイ」
酒の入ったグラスをかちんと合わせて、酒を喉に流しこんでいく。前もって頼んでる料理がいくつかテーブルの上に並んでいる。
「ありがとね、松岡。松岡のおかげでなんとかなりそう。山口さんを説得してくれてありがと」
「いや、自分じゃないっすよ。まりやさんが最後まで諦めなかったからなんとか乗り越えられたんじゃないすか。まりやさんの頑張ってる姿、すごくカッコ良かったです」
「松岡のくせにたまにはいいこと言うんだね。見直したよ、私」
既にテーブルにあるいくつかの料理を食べていく。餃子、炒飯、まりやさんも酢豚を皿に分けて少しずつ食べている。
「松岡が山口さんにあんなに言えるってことはさ、富山にいた頃に松岡が幼なじみの子が好きだったんでしょ。すごく必死だったし」
「えぇ、まぁ」
「やっぱりね。じゃなきゃ、あんなこと言えないよね。松岡は慎重派だけど、言う時はあんなに言うなんてすごいね」
「松岡の一生懸命な姿、面白かった」
「からかわないでくださいよ」
賑やかな店内。まりやさんは笑顔のまま、グラスに口をつける。今まで俺に対してそっけなかったまりやさんが今日はいつもより色っぽく見えた。まりやさんの方が1つ歳上なのに李奈や咲良とは違う大人の雰囲気がかる。
「ねぇ、松岡」
「なんすか?」
「会社に内緒でさ、アタシたち本気で付き合ってみない?結婚を前提のお付き合いを」
…うん?まりやさん、今なんて言いました?
結婚前提のお付き合い。確かにそう言った。
俺が結婚?まりやさんと?
「お、俺すか?」
「うん、松岡だったら一緒にいても楽しいだろうし。咲良とばっかり仲良いの見ててさ、松岡のことをもっと知りたいなって」
まりやさんからの突然の告白。
頬を朱に染めて、目を伏せている。
なんで、俺なんだろう。
俺以外にも、たくさん魅力的な人はいるはずなのに。なんで俺を選ぶんだろう。
咲良とまだ付き合ってないし、忘れようとした李奈も忘れられなかった。俺はやっぱり李奈が好きなのかもしれない。そして、まりやさん。職場の上司であんまりいいイメージじゃなかったけど、今日のまりやさんを見てそれがガラリと365度変わった。まりやさんをカッコ良いというか、少しだけ憧れを抱いた。でも、付き合うとなると話は別だ。
グラスの中に残った少しの酒。その中の氷がいつの間にか小さくなってコップを持っていた俺の右手が冷たいはずなのに冷たいと思わずにむしろ身体中が熱くなるのを感じた。