12 咲良の妬み。
妬ましい、あの人が妬ましい。
すぐに分かった。
きみの隣にいるのは川栄さん。
雅史のそばに誰よりもいた自信があった。
でも、あの人は私をあっさりと超えた。
楽しそうに話すきみの姿。
どうしてそんな楽しそうなの?
まだ好きなの?
もう忘れるって言葉も嘘なの?
お願いだから、離れてよ。
そんな楽しそうにしないで。
耐えられなくなって、きみの名前を呼ぶ。
「雅史っ!」
すぐに振り向いてくれた。川栄さんは笑顔から悲しそうな表情になる。
「あぁ、咲良。どうしたの?」
「あの…まりやさんと飲んでて。それで、家も近いから歩いて帰ってたの」
「あぁ、そうなんだ。久々に李奈と2人きりでいろんなとこ行ってさ」
2人きり?いろんなところに行った?
私はそんなの全然しないのにどうして?
「あ、あの…私家こっちだから。じゃあ、また明日会社で」
気持ちとは裏腹に行動が逆になる。
2人と逆の方を向いて、自宅まで歩く。
私は雅史が好きなのに。
雅史はあの人が好き。
どうして伝わらないの。
好きって言ってくれないの。
私は好きなのに。
どうして応えてくれないの。
パンプスで道の小石を蹴る。
その小石は道をコロコロ転がるだけ。
やがて、小石は止まる。
涙で目の前が見えなくなる。
一粒の涙が、頬を流れた。