06 居残り 〜part2〜
「まりやさんの真剣な顔、少なくとも俺は初めて見た」
「そうかなー?私は結構見るよ」
今日のまりやさんの行動を振り返りながら、課長から頼まれた書類の作成とまりやさんの担当している夫婦のおしどり日記をネットで読んでいた。
「結構面白いね」
「うん、アツアツすぎるけど」
普段の生活の中でのお互いの笑える話、旦那さんの天然な1面、子供と奥さんのスキンシップ、誰が見ても自然に微笑むような内容がブログに綴られていた。
「これとか、面白かったよ」
「うん?」
咲良がパソコンの画面を見せてきた。旦那さんの母親からの手紙の話だ。
ハハ、ケガ ムラサキナ
お母さんが怪我したと思った旦那さんと奥さんは急いで旦那さんの実家に。家に行ってみると怪我なんて全然してないし、ただ単に髪の毛を紫にしていただけの話だった。貴重な有給を取ってまで行ったのに、ただの母親の髪を染めたことに振り回された話だった。
「お母さんがこんなキャラならずっと笑ってられるかもね」
「まぁ、そうかもね」
そう答えたが、俺は微塵もそんな風には捉えられなかった。親父がアニキを溺愛していたのはわかる。だから、俺はお袋は俺の事を考えてくれてるとずっと信じていた。でも、裏切られた。お袋は信じたことは俺の大きな過ちだった。
アニキもアニキだ。俺の尊敬していたアニキはどこへ行ったんだ。どんなことがあろうと自分よりも俺の事を心配して、いつも俺を助けてくれていたあのアニキは、もういない。
アニキのような自分よりも人のことを考えられる人が俺の理想だったのに。
「よし、終わったよ」
背伸びをしながら、咲良が机の上にホッチキスでまとめた資料を束にする。心の中の憎悪が心の奥にスーッと消えていった。
「じゃあ、先に帰るね」
咲良は仕事を終えた瞬間、さっさと引き上げていった。引き止める間もなく消え去った。
「ちょっ、戸締り…また俺だよ」
文句を言いながら、戸締りをして会社を後にする。時刻は夜10時。人通りも少ない。早く帰りたくなって、自然に早歩きになる。
途中でコンビニに寄って、コーヒーゼリーとシュークリームを買って自宅に帰る。
「ただいま」
翔伍はもう俺のベッドで寝ている。布団1枚かけてないまま眠っており、布団をかけてやる。そのままソファにもたれかかる。何も考えないまま眠りに落ちていった。