04 遅刻。
気づいたら、自分の部屋のベッドの上。
たぶん、昨日帰ってそのまま寝たんだろう。玄関にはバッグが横倒しになっていた。
「うわっ、仕事行かなきゃ…」
シャワーを浴びて、急いで会社に行く準備をする。冷蔵庫の中にあったエクレアを口に頬張って資料の確認等をしていく。
「行ってきまーす」
歯磨きを済ませて、家を出る。自宅から東京エクスまでは歩いて15分ぐらい。そのかわり、そこに行くまでの交差点の信号待ちが結構長いので早めに行かなければ遅刻する。
「おはようございます」
入口を開けると将太さんと立花課長、それからまりやさんが来ていた。宮脇さんと太一さんはまだ来てないらしい。
「おはようございます、松岡くん。宮脇さんがまだ来てないんですが何か知ってますか?」
一つだけ頭に引っかかる、昨日の出来事だ。あの後宮脇さんはどうなったんだろう。全然覚えてない、大丈夫かな。
「いえ、特には」
「うーん、そうですか。石本くんは結構日常茶飯事なので慣れてますが、宮脇さんはそんな風には見えないので少し心配ですね」
課長がため息をついて椅子に座り直した直後に宮脇さんは息を切らせて入ってきた。
「おはようございます、宮脇さん」
「あ、あの…遅れてしまってすみません。寝坊しちゃいました」
「そうですか。寝る子は育ちますからね。今度から気をつけてくださいね」
「は、はい…」
立花課長は終始笑顔のまま、宮脇さんを叱った。…といえるのか、これは。もうまるでお父さんみたいな感じだ。
「石本くんはまだですね。仕方ありませんね、朝のミーティング始めますか」
全員で会議室前のドアに立つ。そして、課長がドアを開けた。会議室の長机に太一さんは突っ伏して眠っていた。課長も流石に唖然としている。
「なぁ、雅史」
「はい」
「お前はああいう風になりたいか?」
首を横に振ると、将太さんは何度か頷く。
そして、俺の肩にぽんと手を置いた。
「34にもなって、彼女もなしだ。もしもそんな風になりたくなかったら、お前はちゃんと仕事しろよ」
「…はい」
皆の動きが止まってる中、太一さんは机に突っ伏したまま寝息を立てて眠っていた。目を覚まそうともしない。将太さんが新聞紙を丸めて勢いよくパシーン!とその特徴的な天然パーマの頭を殴ると、太一さんは慌てふためいて起き上がる。
「おめー、そろそろ起きろや!」
「いってーよ、将太。何すんだよ」
「おめーがいつまでたったって起きねーからこうやってんの!ここで寝てるの何回目だと思ってんだよ。このタコ助が」
「タコ助って…バカ将太」
「黙れ、タコ助太一が」
6月の朝の9時。男どうしのくだらない口喧嘩から東京エクスの1日が始まる。