第七話 幻獄ふれあい街歩き
古都「パラドゥ (Paradu)」
前世「日本」で蟻として叶姉妹に飼われていた黒人「アンソニー」。彼の説明によれば、叶姉妹が転生し突如出現したのは、「プリサーナ (Prisana)」と呼ばれる草原地帯で、ほとんど人間は住んでいないとのことだった。そうであれば、いきなり獄卒の「ひよこ餅」が登場したのは、いかにも不自然である。もちろん、上位の喧嘩師は瞬間移動が可能であるし、喧嘩師から構成される軍隊「Riot Vanguard」にも瞬間転送装置や高速移動が可能な航空機がある。とはいえ、突然現れた叶姉妹にあれほど早く対応できるはずがない。

アンソニーに先導された叶姉妹一行は、まずアンソニーの居住地に向かった。

幻獄、すなわち「喧嘩界」の中核である「喧嘩城」があるのは、首都の「マハラヤ (Maharaya)」。そこに行くには、まずアンソニーの住む古都「パラドゥ (Paradu)」から電車に乗り、幻獄第五の都市「タラナガン (Talanagan)」へ、そしてそこから第二の都市「カサリンガン (Kasalingan)」を経て要塞都市「タルグリス (Talgris)」を通過しなければならない。

城壁に囲まれた「パラドゥ (Paradu)」の街に入ると、まず人々が集う広場が目に入る。叶姉妹を見つけた野犬が「エホッエホッ!」と叫んだ。その傍には五・六人ほどの人間の死体が放置されていた。「転生」が可視化されている世界では一般に「生命」は軽く扱われがちだが、ここ幻獄はそれがとりわけ顕著であるようだ。

もちろん、叶姉妹はそんなことには頓着しない。

アンソニーが「ここから市場です」と言って石造りの建物の角を曲がった。

「うわあ…」思わず美香が声をあげた。

無限に続くかのように見える長い路地の右側に、ずーっと露天が並んでいた。

「食材を買っていきましょう」アンソニーが言った。

前世でも見たことがあるような野菜もたくさんあったが、全く見たこともない野菜もあった。

「このウーマナイザーみたいなのも野菜なの?」

恭子が質問すると、

「ええ、炒めるとおいしいですよ。生で食べると死にますけど」

アンソニーは笑いながら言った。

夥しい数の人間の眼球が売ってあった。

「これはどうやって食べるんですか?」

今度は美香が質問した。

「生です。ポン酢みたいな汁をかけて食べます」

「そこらへんに人間の死体がいっぱいあるのに、わざわざ買うんですか?」

「やっぱり生で食べるものですからねえ…」

美香はなるほど、と頷いた。

「ここに売っているのは、養殖の人間なんです。食用の」

「ああ…」恭子が頷く。

今度は、夥しい数のペニス(ちんぽ)が売っていた。

「さすがに、これだけあると壮観ねえ」

恭子が感心したように呟いた。

「これも生で?」美香が訊く。

「生でもいけますし、焼いてもおいしいですね。僕は断然、ボイルをおススメしますけど」

「じゃあ、眼球とペニス、買っていきましょう」

「わかりました」

「ああ〜ああ〜」フランチェスコが嬉しそうに声をあげた。

「この建物の中に、人間の養殖場がありますよ」

アンソニーが指差したのは、レンガ造りの歴史のありそうな建物だ。

「見学しますか?」とアンソニー。

「いいんですか?」と美香。

「ここらへんは観光地でもありますからね。元々見せる用にも造ってあるんです」

アンソニーが言った。


養殖場の人間たちは、まさに「死んだ魚」のような虚ろな目をしていた。当然、食べられることはわかっている。

「彼等は食べられることに同意しています。一人ひとり、同意書が貼り付けてありますでしょ?」

アンソニーが指差した方を見ると、一人ひとりの仕切りの壁に、何やら書類が貼り付けてあった。

「それなら安心ね。同意もなしに食べたら、ただの殺人ですからね」

美香が納得したように言った。いや君ら同意もなしにすぐ人を殺す殺人鬼ですやん、などとは誰も言わず、アンソニーはニコニコしていた。

食用の人間たちの中には明らかに泣いている者もいる。本当に同意を得ているのか、得ているとしても、それは本当に同意と言えるのか。疑問は尽きないが、この場の誰一人、そんなことは気にもとめていなかった。

養殖場を抜けて市場の一本隣の路地に出ると、そこらじゅうでセックスしていた。

「痛くないのかしら?」

石畳の道の上で正常位でセックスしているカップルがいた。首を絞め、死んだ女の顔に男が顔射した。

「いいわねえ、生命の尊厳を湯水の如く消費するこの感じ」

恭子が心底、この世界に惚れたという顔をした。女と男とそのどちらでもない者の死体がそこかしこに放置されていた。

ペニスを無理やり眼に押し込もうとしているカップルがいた。眼球はおちんちんに押されて上に移動し、脳味噌のところでクルクル回転していた。

おまんこに爆竹をいっぱい突っ込んでバラバラバラバラッと爆発させたら女が死んだ。それを見て男は射精し、それを空いた方の手のひらに受けて、受けた精液を自分の肛門に突っ込んだ。さらに爆竹も突っ込んで爆破させ、自分も肛門から大量の血を流しながら死んでいった。

アンソニーの家はこの「セックス通り」のちょうど真ん中あたりにあった。

「ここが僕の家です。どうぞ遠慮なさらずに」

アンソニーと叶姉妹一行は笑顔で家に入っていった。



アメリカン・クルーソー ( 2024/01/13(土) 15:42 )