蟻と叶恭子
2008年6月4日、映画『バグズ・ワールド』の公開に先駆け、虫の日(6月4日)記念イベント「叶恭子VS叶美香 蟻の女王対決」がTOKYOFMホールで開催された。
映画には2匹の女王アリが登場するが、それにちなみ、姉の恭子は交尾したオスを喰らって糧とするどう猛な「黒アリ(サスライアリ)の女王」をイメージしたセクシーな黒のドレス、妹の美香はアリ塚を守り、永遠に1匹のオスと添い遂げる「白アリ(オオキノコシロアリ)の女王」をほうふつとさせる清楚な白のドレス姿で壇上に登場。アリの触角を表現したという美香の髪飾りが時折ユラユラと揺れ、「とてもかわいい!」と観客に好評だった。 2匹の女王アリの配役については2人の間でちょっぴり揉めたらしいが「私生活を考えますと、やはり私が白かなと思いまして…」と美香がきつい先制パンチを放つと、恭子は「私、いろいろなことに貪欲(どんよく)ですが、男性は食べたりしませんことよ」と一蹴した。しかし「パワフルな生き方は私と似ているわね」とまんざらでもない様子だった。
恭子は大の昆虫好きで、特にアリは一番のお気に入りとか。かつては、プラスチックのケースに青い透明ジェルが入ったアントクアリウムで飼育に挑戦したこともあるそうだ。「(一匹一匹に)エリザベスとかアンソニーとか名付けて飼っていました。少しの間でも複数のアリを一緒に入れておくと共食いしてしまうんですよ」と話すと、美香は「姉が『美香さん、アンソニーがいないのよ!』と大騒ぎするんですよ。それでアリがかわいそうだから自然に帰そうということになって。その辺で放せばいいかなと思っていたら、姉が『富士山のふもとまで行ってきて』と言うので、未明に車を飛ばして行きました」とあきれ顔で話した。
書店に行くと、ありとあらゆる昆虫図鑑を買いまくっているという恭子は、「生物の中でアリは最も知的な生き物だと思います。その生き方も、行動も、フォルムも、とてつもなく美しい」とトークショーの間中、アリの素晴らしさをアピールしまくっていた。
司会:恭子さんは、昔「アントクアリウム」というアリを飼ってらっしゃったと伺いましたが、どんなアリを飼っていたんですか?
恭子:黒い大きなアリですねぇ。名前をつけていましたよ。“エリザベス”とか“アンソニー”とか。でも、共食いしたりして、よく朝起きると頭だけ、ということもありましたね。
美香:姉はよく「“アンソニー”がいない!」とか言っていました。姉には分かるみたいですね。それで、(アリが共食いしてしまって)可哀想だから放してきてと姉に頼まれたんです。しかも東京ではダメだと。未明に富士山の麓まで(車を)とばしました。
司会:未明に! 富士山の麓まで!! それはすごいですね〜(笑)
さて、今回イメージしていただいたそれぞれのアリの女王ですが、白の女王・オオキノコシロアリは、一匹の王アリと寿命まで何十年もずっと一緒に添い遂げるそうですが、黒の女王・サスライアリは、婚姻後、王アリを食べてしまうそうですね。恭子さん、美香さん、そういった部分について、ご自身共通点などありますでしょうか。
美香:サスライアリは交尾したら雄を食べてしまい、オオキノコシロアリは1人と決めたら生涯その人と生きる、という生き方はそれぞれ合っていると思います。
恭子:私は食べたりしませんよ。(場内、爆笑)
恭子:サスライアリはホテルライフが好きなんですね。目に留まったものをすべて食べつくす、パワフルな生き方は似ていると思います。
司会:美香さんはいかがですか?
美香:そうですね。やはり、きちっとした家を構えていて、アリ塚を構築して1人の人と添い遂げる、という真面目な堅実な生き方を望んでいます。
※※※
叶姉妹一行は、幻獄の首都に近づきつつあった。森林地帯を抜け、草原地域を横断し、ようやく人が住んでいそうな地域に到達した。
「おひさしぶりです」
一人の黒人が話しかけてきた。
「ええっと…どなた?」
「僕です、アンソニーですよ」
「アンソニー?美香さん知ってる人?」
「いえ…」
過去のグッドルッキングガイのメンバーにもそんな名前の人間はいなかった。
「前世のどこかでお会いしたかしら」
「はい。恭子さんに飼っていただいていた、蟻のアンソニーです」
「えっ?蟻の!?」恭子は絶句した。
「そんなことあるんだ…」美香も感心したようだった。
「同じアントクアリウムで飼われていたエリザベスに食べられちゃって、頭だけになっちゃいました。覚えてらっしゃいます?」
「……っク」恭子は絶句したまま、自分の唾に阻まれて言葉を発することができないでいた。
「いや!」アンソニーは手をふって否定する仕草を見せた。
「別に糾弾するとか、そんなんじゃないんですよ!」
「え…」恭子は素直に驚いた。
「ただ懐かしくて…ここに人間として転生してきた時に、前世でのこと、恭子さんに飼われていた記憶、全部が懐かしい記憶として僕に甦ってきたんです」
「そうなの?」
「はい」
「それで…」
「はい、それで『叶姉妹がこの世界に転生してきた』って聞いて、ぜひ、お役に立ちたいと思って、ここに来たんです」
「すごい!めちゃくちゃ助かります!ねえ、お姉さま」
「ええ…」恭子にはまだ事態が飲み込めないようだった。
「とりあえず、僕の家に来ませんか?お昼ご飯まだでしょう?」
「ええ、森や草原の木の実や果物しか口にしてないので…」
美香がそういうと、ようやく恭子も、
「じゃあ、お願いできますか」
「もちろん、よろこんで。君もよろしく!」
アンソニーはフランチェスコに握手を求めた。フランチェスコは、
「ああ〜ああ〜」
と言いながら、笑顔で握手に応じた。