シリーズ『大論界』(5):「ゴッドストーリー〜刀葉林の叶姉妹」 - 第五話 塾長の帰還
幻獄の果実
「お姉さま、ひょっとして、私たち、神様かなんかなの?」

叶美香が素朴な疑問を吐いた。

「そうねえ…」

最初はちょっと喧嘩が強くなったくらいに思っていたが、まるで無限に「力」が湧いてくるかのように、どんどん強くなっている。あの軍勢を麦でも刈り取るかのように倒していったのは、さすがの恭子も「我ながらおかしい」と思っていたのだ。

「いくらなんでも強すぎるわね。しかも、時間とともにどんどん強くなっているのが自分でもわかる。美香さんもそうなの?」

「ええ…。まだ戦車とかは無理だけど、普通の自動車くらいなら素手で破壊できると思います」

「うーん、でもこんなこと考えてわかる話じゃないわね」

「はい。何か一定の方向に誘導されてる感じがありますし、とりあえずその方向に進んでいくしかないんじゃないでしょうか」

「私たちをこの世界に招きいれた者がいるということね。それは私もなんとなく感じてたわ。最初からね」

金髪のグッドルッキングガイ、「フランチェスコ・ペトラッコ」は、ただただ「ああ〜」と叫ぶばかりである。ルネサンス を代表するイタリアの文学者「ペトラルカ」は本名を「フランチェスコ・ペトラッコ」というが、このグッドルッキングガイがペトラルカの生まれ変わりなのかは知る由もない。

叶姉妹には当然、前世で「叶姉妹」として芸能界を生きていた記憶があった。しかし、さらにその前世となると全くわからない。というより、「前世」があるなどと想像したことすらないのだ。

「あれ?…あれって…」

恭子が森のほうを指差した。

「ユニコーンじゃない?」

「ほんとだ!角がある」

「二本のもいるわ」

「ああ、バイコーン(二角獣)ですね」

「ユニコーンって処女じゃないと捕まえさせてくれないらしいわね」

「そうですね。かといってバイコーンは凶悪そうだし…」

「角が一本増えただけなのにね。なんでこうもイメージが違うんでしょ」

「うーん」

「どう?勝てそう?」

「ユニコーンにですか?どうなんですかね。自動車とか戦車とかと違って測りがたいですね」

ユニコーンは叶姉妹一行をじっと見ていたが、やがて立ち去った。バイコーンは、はじめから叶姉妹たちに興味をもっていなかった。


「最も恐ろしいのは、モノケロース(monoceros. 一角獣)で、これは恐ろしいうなり声を上げ、ウマの体、ゾウの肢、ブタの尾、シカの頭を持つ怪物である。その額の中央から、素晴らしい輝きのある一本の角が突き出し、その長さはほぼ 4 ペース(約 118.36 センチメートル)で、それは非常に鋭く、何であろうと一撃で、容易に刺し通す。生きているものを人の力で手に入れることはなく、少なくとも殺すことはできても、捕まえることはできない。」(ガイウス・ユリウス・ソリヌス『奇異なる事物の集成』第52章第39 – 40節)


旧約聖書の『詩篇』には「一角獣の角から弱き我が身を護りたまえ」という神への祈りが存在するが、現代では「野牛」という言葉に置き換えられている。

叶姉妹は気付いてないが、彼女たちが立っているすぐそばにたくさん生えている植物は「ザックーム(Zaqqūm)」といい、イスラム教の伝説で地獄に生えているとされる植物である。ザックームには「アッダリ」という苦い果物が実をつけ、この果物は悪魔の頭のような形をしている。罪人たちの口の中がいっぱいになると、ザックームは腹の中で燃え盛る油のように暴れ回るという。

「面白い形のくだものがあるわよ」

恭子がアッダリを見つけたようだ。

「変な形をしてますね〜なんか鬼か悪魔みたいな…」

「食べてみる?」

「そうですね」

二人は周囲のザックームからアッダリを何個かもぎとると、さっそくそれを食した。

「おいしいわね」

「いけますね!」

「フランチェスコもどう?」

「ああ〜!」フランチェスコは結構です、とばかり、手のひらで拒否のサインを出した。

「どうして?モンスターエナジーみたいで美味しいわよ」

「ああ〜、ああ〜!」
フランチェスコは少し離れたところにある木を指差した。

「果物がなってるわね。あれが食べたいの?」

「ああ〜!」我々には肯定とも否定ともとれないが、叶恭子はそれを肯定と受け取った。

フランチェスコが指差したのは、「ナリーポン(Nariphon)」(別名「マカリーポン(Makalipon)」)というタイなどでヒンズー教や仏教の伝説の神話に登場する木で、人間の美人が転生してこの木の果実になるという。

フランチェスコはそれを六個、美味しそうに食べた。

六個とも、ハロー!プロジェクト(ハロプロ)初の海外オーディション「早安家族New Star」にて合格したメンバーによって結成された女性アイドルグループ「アイスクリー娘。」(アイスクリーむすめ。中文表記:冰淇淋少女組。英文表記:Ice Creamusume。)のメンバーが転生した姿である。


〔メンバー〕
吳思璇(シェンシェン、喜樂)(1988年1月10日 - )リーダー
鍾安h(アンチー、安h)(1989年7月23日 - )サブリーダー
曾コ萍(ペイペイ、傻白)(1991年2月10日 - )
趙國蓉(ヨウコ、燈泡)(1992年8月28日 - )
邱翠玲(レイレイ、阿翠)(1994年1月16日 - )
古筠(グーチャン、小筠)(1996年12月14日 - )


「アイスクリー娘。」は、台湾を中心に活動しているハロー!プロジェクトの研修生により結成されたハロプロ台湾のグループであった。メンバーのほとんどは学生であるため、大々的な芸能活動は主に長期休暇(夏休みなど)を主体とし、日本と台湾の両方でアーティスト活動を並行して活動していく予定であったが、日本で行われた2009年の夏のHello!Projectコンサート出演以降、台湾で数回イベントに出演した後、公式な発表がないまま事実上の活動休止状態となり、その後、アイスクリー娘。自体がどうなったのかという詳細は不明である(公式ブログもリニューアルのため一時閉鎖し、後に再開することが告知されていたが、一時閉鎖後そのまま再開されていない)。

ナリーポン(ナリフォン)は神聖な木で、この木に生る果実は若い女性の形をしており、女性の頭の先端が枝の端からぶら下がって実をつけるという。ナリーポンの実は、16歳ほどになる少女の形をしており、大きな目はサファイアのように輝き、虹彩と髪は黄金色といわれ、人間のような内臓器官を持っているが、骨はなく非常に柔軟で、時には歌ったり踊ったりすることもできるという。


フランチェスコに食べられたナリーポンは、いずれも無抵抗で、干し柿に近い食感と、特上の「夕張メロン」にイタリア産非加熱の生ハム「プロシュット・クルード(Prosciutto crudo)」を巻いて食べたような味が、生涯忘れられないものになったとのことです。


アメリカン・クルーソー ( 2023/11/21(火) 01:51 )