第三話 「論破システム」爆誕!!
呂布カルマ、東新町に死す。
ここに、望月衣塑子が死の直前に構想した「論破システム」が誕生したことになる。

改めて説明すると、「論破システム」とは、「議論界」という亜空間に引きずり込まれた者が論破されると、別の異世界で起きた出来事が写像して時に死に至ることもある、というものである。この場合、「議論界」は極めて小さい範囲で引きずり込まれた者(「議論者」という)の元の世界と時空を共有する。「議論界」はここでは「議論者」の周囲にしか存在しない。そして、「議論界」と議論者が元いた世界は、物理的な影響関係を与え合うことができるのである。

望月衣塑子は、これを自分一人に与えられた超能力(領域展開)だと考えていたようであるが、元々は単なる偶然で、異世界間でまれに起こる偶発的な自然現象にすぎなかった。これを世界全体の記述者である私が、「根元的ブラックホール」の「事象の地平面」に必然的な法則として書き込んだことで普遍化されたのである。

しかし、私とて「神」ではない。この世界を創造したわけでもあの世界を創造したわけでもない、ただの精神体にすぎない。従って、法則を形式的に必然化することはできても、具体的にどの世界のどの時空のどの出来事が、どんな世界のどんな時空のどんな出来事に「写像」するのか、そして「議論界」がどこに出現し、誰を引きずり込むのか、ということまでは規定できない。無限に存在する出来事同士の関係を全てひとつひとつ関係づけるなどということは、私の能力をはるかに超えた超絶的な事態である。

例えば、現在の出来事が過去に写像してしまう、というようなこともあるが、これとてその多くは私がそう仕向けたものではない。

2022年5月10日、AbemaTVの番組「マッドマックスTV論破王」に出演した「論破王ひろゆき」こと西村博之は、人気ラッパーの呂布カルマと対戦した。呂布は即興でラップバトルをする「フリースタイルダンジョン」のモンスター(王者)で、その知識量や巧みな切り返しで圧倒的な人気を集めていた。あまりの強さに、「ヒップホップ界のひろゆき」と「揶揄」されていたほどである。「本家超えできるよう頑張ろう」、「音の上で韻を踏みながらやらなければならないという制約の下やってるんですけど、それがない状態なのでやりやすい」と対戦前からと意気込んでいた。

2人は「強面(こわもて)は得するか、損するか」というテーマで対戦。呂布は「得する」の立場で「顔の第一印象はセキュリティ」という持論を展開。強面であることで緊張感を与えるのは、「警戒心を与えるので損」と述べるひろゆきに対し、話してみていい人であった場合のギャップで好印象が強まるなどの持論で対抗。判定「3対1」で見事に勝利した。

この時、運悪く「議論界」に突入してしまった敗者・ひろゆきは、凄まじい垂直の力によって上下に押し潰され、大量の血を噴出しながら円い板のようになった。



「議論」で人を殺してしまうという自らの行為に恐怖した呂布カルマはラッパーを引退、出家しようと禅宗の専門道場の門を叩いたが拒否され、結局ラッパーに復帰している。

その後、「マッドマックスの決闘」を振り返った文春オンラインのインタビューで、呂布カルマは「論破なんてしないほうがいい、幼稚なんですよ」と語っている。

――論破王に勝ったことで、仕事の幅も広がったのでは?

呂布「激増したっす。バラエティに呼んでもらう流れはその前からあったんですけど、ひろゆきさんに勝ってからは、コメンテーター的な仕事が大量に入るようになりました。『呂布カルマの言い分を聞いてみたい』という声が、増えたのかもしれません」

――今、日本では「論破ブーム」が来ていると言われています。小学生が「エビデンスを出せ」とか、「それってあなたの感想ですよね」とか、ひろゆきさんの真似をして親や先生たちを困らせているそうなんですけど、その風潮について、呂布さんはどう思われますか?

呂布「全然、良いことだとは思いません」

――ははは!

呂布「論破という言葉のキャッチーさだけが独り歩きしている。でも、ある程度大人だったら、論破なんてしないほうがいいとわかるじゃないですか。幼稚なんですよ、論破って。SNS上で顔が見えない相手に対して、「はい、論破」みたいに吐き捨てるのも。あんなの大人が顔合わせてやったら、マジでめちゃくちゃ馬鹿にされることですから。論破をありがたがるのは、幼稚な流行だと思います」

           ※※※

『歩道・車道バラエティ 道との遭遇』というテレビ番組のミニコーナー「名古屋の夜の道で、呂布カルマにハマりたい」の収録が予定されていた日の出来事である。「名古屋痴女M性感フェチ専門 黄金の口本店」の前の廊下を歩いていた呂布カルマの頭が突然、ドバァッ!!と真っ二つに割れ、腹のあたりまで大きく裂けた。周囲は血の海となり、のちに「黄金の口本店」は廃業に追い込まれたという。事が事だけに、事件が起きた詳しい日時や、呂布が「黄金の口本店」に入っていたのかどうか、などは明らかにされていない。


私は、呂布カルマの「ディスらない寛容ラップ」が大好きである。

私は、論破されたわけでもないのに、「論破ブーム」を批判したというだけのことで殺された呂布カルマが哀れでならない。

いったい、どんな亜空間勢力がこんな馬鹿げたことをしたのか知らないが、私は「議論界」を絶対に許さない。「論破システム」を論破以外のことに用いてはならない。

私の世界記述の形式性や記述漏れから発生する「隙間」や「解釈の余地」を利用して「論破システム」を暴走させた犯人を、私は必ず見つけ出して始末する。


私は今、そう心に決めたのである。




アメリカン・クルーソー ( 2023/10/17(火) 18:09 )