重なり合う異世界
ひとくちに「異世界」といっても、そもそも次元を異にする異世界もあれば、次元は同じだが時空を異にする異世界もあり、同じ時空だが起こる「出来事」を異にする異世界もある。時空が重なり合うからといって相互に影響があるとは限らず、時空や次元を異にするからといって影響関係がないと言い切ることもできない。
霧雨の隙をついて逃げ出したエカテリーナは、霧雨が案内しようとした方向とは全く逆の方向に進み、大阪府交野市私市にある磐船神社の「岩窟めぐり」のようなところを通り抜けて元いた自分の部屋に帰ってきた。しかし、そこは見た目は完全に自分が元いた世界に似ているものの、実は全く違う世界だったのである。
お腹のすいたエカテリーナは、何か食べようと台所に向かった。リビングのテーブルには焼いたばかりの牛肉の塊が湯気を立てていた。
「これ、食べていい?」
エカテリーナは、テーブルの向こう側でソファーに腰掛けテレビを見ている家族に声をかけた。だが、エカテリーナに背を向けて並んでいる家族は誰ひとりとして反応しなかった。「自分への当てつけで無視してるんだ」と思った彼女はムッとしたが、とにかくお腹がすいていたので、台所に行き大き目のフォークとナイフをもってきて肉に突き刺した。
「アァーアァーッッ!」
そう叫んで倒れたのは父親だった。家族が「どうしたの?」と駆け寄った。
(しらじらしい)そう思ったエカテリーナは肉を切り刻み、口へ運んだ。
「ウアアアーッァァアーッッ!」
そう叫んで床を転げ回っていた父親のアグラノビッチ少佐は、エカテリーナが全ての肉を食べてしまうと、すぐに事切れた。
「キャアアア!!」
狂乱する家族の近くにいって父親の死に顔を見たエカテリーナは、ようやくそれが狂言やお芝居の類ではないということを悟った。
「お父さん!お父さん!ごめんなさい!!」
しかし、時すでに遅し。アグラノビッチ少佐は、かつて日本の元首であり主権者でもあって、その後「象徴」となった昭和天皇と極めてよく似た顔で死んでいた。それはしばらくすると氷が融けるみたいにして崩れはじめ、最終的には悪魔プーチンの顔になってプ〜ンとうんこの臭いを漂わせた。
エカテリーナは家族に事情を説明して詫びようと話しかけたが、誰も何の反応も示さなかった。彼女は、同じ時空に存在していながら、家族とは別の異世界に属していたのである。彼女の世界でさっき彼女が食べた肉に起こった出来事は、元の世界のアグラノビッチ少佐の内臓に起こった出来事に写像され、結果として少佐は内臓の致命的な部分を失い死んだのである。このことと、エカテリーナに元の世界が認識できるということ以外は、二つの世界は全くの没交渉であり、お互いに何の関係もないのであった。
同じ時空に存在していながら互いに独立した世界はいくらでもあり、ほとんど無限に重なり合っている。その大半は完全に無関係で何の影響も及ぼさないのであるが、部分的にこのような「写像」を生み出すケースも少なくはないのである。一般に「超常現象」だとか「心霊現象」といわれている現象の大半は、異世界間の部分的な影響関係の結果生じるものである。
2023年9月7日、創業者の故ジャニー喜多川元社長による性加害問題を巡り、ジャニーズ事務所の記者会見が行われた。藤島ジュリー景子、東山紀之、井ノ原快彦、顧問弁護士が出席し、時間は4時間10分に及んだ。その席で、『東京新聞』の望月衣塑子記者は、東山紀之に次のような質問をした。
望月衣塑子「白波瀬さんがこれまで番頭としてジャニーズ事務所を支え、そしてその全てを知る1人だと、1999年に14週連続で週刊文春が報道したときも彼は『一切そういうことはない』と、ある種今から言えば虚偽の発言をして、広報担当として訴訟の場に立っている。で、2004年に性加害認定されて以降、それを知る人たちは何1つ、ジャニーさんと少年たちとの合宿所の分離とか一切対応してこなかった。こういったジュリーさんよりも内部を知る方をなぜ今日この場に出さないのか、非常に問題だと思います。それから、東山さん、井ノ原さん。特に東山さんはですね、先程から非常に良いお話はたくさんしていただいてるんですが、ご自身のセクハラ、パワハラに関連するようなお話になると、2005年の出版『SMAPへ―そして、すべてのジャニーズタレントへ』、元ジュニアの山崎正人さんが書かれた本です。読んでないのになぜ虚偽だと思うか、中身も読まずになぜわかるのかなと思いますし…」
この発言がスイッチとなり、東山は「議論界」へと巻き込まれた。もちろん、東山本人に「議論」をする気など毛頭ない。しかし、言論によって自分の身を守らねばならない時、しかもそこに自分の精神的生命が懸かっているような時、ひとはしばしば「議論界」に引きずり込まれるのである。
東山紀之「ネットで見ました」
望月衣塑子「そうですね。では、そこに書かれていた、彼の言っている例えばパンツが無いといったジュニアの方に自分のパンツを脱いでこれを履けばどうかと言ったり、電気あんまをしたり、それから、これは私もあんまり、まぁ少年隊はすごい好きでしたので、この話じたいはショックでしたけども、ジュニア達を目の前に、ご自身の陰部をさらして、俺のソーセージを食えと、正にここ見出し取られてます。いわゆる、やられた方たちは覚えている。それからご存知のように、当事者の会の平本さん、石丸さん、そして忍者の志賀さん、皆さん本当にデビュー前から東山さんを知っています。全てを知る人だというお話をされてました。これ報告書を読まなくても、恐らく東山さん、井ノ原さんにも聞きたいですけれど、ジャニーさんのそういった性癖、ジャニーさん自身がおふたりに加害をしていたのではないのか?という気がしているんですね。元タレントたちがこういう被害があって何十年経っても苦しんで、薬を飲んだり、自殺未遂を犯したり非常に追い込まれてるし、やはり現役のトップスターである皆さんたちが果たしてどうだったのかと。そして、その課題についてそれを耐えることをしなければやはりスターという道が見えなかったのではないかとか、その加害の延長としてこの本に記載されてるようなある種の加害ということを連鎖的にやってしまったんじゃないかなという気がします。なのでもう少し正直に、どういったことをお2人がデビュー前から、ジャニーさんそしてメリーさんという二大独裁体制の中で、2人の一方で性加害、一方で他のタレントは出すなというテレビへの圧力、それを様々な形でメリーさんがやってたという報道も出てます。そのときはしょうがないと思ったかもしれないけれど、今全てがいろんな形で洗いざらいで出てる中でどういう風に過去を振り返るのか。被害の実相と忘れてるかもしれないが負の連鎖として元ジュニアさんたちに加害をしてたとしたら、それを今どう感じるのか、根本的なそこを特に東山さんがつまびやかに話してもらわない限りは、何がていよく取り繕ってファンの方たちに向けて刷新して頑張りますと言っているように聞こえる。今最前線で活躍してるお2人が、ある種どうだったかというところについてはもう少し踏み込んで真実を語っていただきたいと思うんですが、いかがでしょうか」
東山紀之「もちろん覚えてることと覚えてないことがありまして、日常生活の中でダンスレッスンであるとかそういうことも含めて、みんなと一緒にいたことは多々あると思うんですね。本当に覚えてないことの方が、多くてですね、もしかしたらしてる可能性もあるしもしかしたらしてないかもしれないし、ただやっぱりもちろん若気の至りがあったりそのときの自分の幼稚さであったりとか、そういうものもあったとは思うんですね。ただ記憶をたどっても、ちょっと覚えていないことも本当に多くて、僕もそうだと思うんですけど多分、いろんなことやってるんだと思います。でも、向こうはすごくよく覚えててくれてただこっちは覚えてないみたいな。僕もやっぱりあの先輩がこういうことがあったというのはすごいよく覚えてたりとかするんですけど、あの先輩もよく覚えてなかったりとか。やっぱりなかなか記憶を呼び起こすのが難しい作業でもあったので、実際したかもしれないししてないかもしれないというのが本当の気持ちですね」