酒宴
「ひよこ餅が殺られただと!?」セルシア(Selcia)が叫んだ。
「しかも、ほとんど瞬殺だったっていう話だぜ」と黒うさぎが応ずる。
上座に座る真っ赤なマントの「統括者X」は目をつぶり沈黙を守り続けている。真っ黒いマントで全身を覆われた部下の相剋は中に人が入っていないかのごとく微動だにしない。
パーロンマスクは薄笑いしながら酒を飲み続けている。
地獄とも煉獄とも違う、ここ「幻獄」。前世で喧嘩師だった者ばかりが転生してくる独自の世界である(しかし、喧嘩師「だけ」というわけではない)。
叶姉妹はどういうわけか、ここ幻獄に転生してきて、いきなり幻獄最強の戦士「ひよこ餅」を倒してしまったのだ。
幻獄の中心にあるここ「喧嘩城」の最上階では、幻獄の管理者である「統括者X」と、彼女を支える「四天王」が酒宴をひらいていた。
「まさか、あの"最狂"がやられるとはなあ……。信じられんよ。どんな奴なんだ?」
セルシアは顎を撫でさすり、考え込んだ。
「なんでも、二人組みの女だって話だが。噂じゃ、あの『叶姉妹』に似てるとか」
「まさか‥ここへの転生は、他と違って厳格に管理されてるはずだぜ」
「転生管理局がいったいどんな思惑でこの世界(幻獄)に俺たち喧嘩師をあてがったのか知らねえが、俺たちには天国だよな」
「管理局の管理を逃れ得る者がいるとすれば、『神』かそれと同等レベルの者ということになるが‥」
「ま、いずれにしてもただモンじゃないわな」
黒うさぎがニヤリと笑みを浮かべた。
「面白そうだな……会ってみるかい? 」
「おいおい、冗談言うなよ! 俺はごめんだね。そんなヤバイ奴らと関わり合いになるなんて、命がいくつあっても足りゃしねぇよ!」
パーロンマスクが慌てた様子で手を振ったが、 セルシアが意地の悪い顔で笑い、
「そう言わずに、あんたも来な。ひょっとしたら、ひょっとするかもしれないじゃないか。なぁ? パーロンマスク殿」と、促した。
パーロンマスクはしばらく思案したのち、「しゃーないなぁ……」と言って席を立った。