言論のスラム街(パートU)
こうして、「現実のスラム街からヒップホップが生まれたように、言論のスラム街から何か、既存の文化とは違う文化が生まれないか?」という考えが『キャスフィ避難所』に明滅した。ただ、「文化」という言い方は少し範囲が広すぎるようだ。現実のスラム街からは、ヒップホップという「音楽」が生まれた。だとするならば、言論のスラム街からは、ヒップホップに相当するような、「文学」が生まれねばならないのではないか?
そう考えた私たちは、まず「ヒップホップ」について検索してみた。そして、本話冒頭で引用した、「現在日本のHIPHOPシーンで一大ムーブメントを巻き起こしている若手筆頭クルーBAD HOP(バッドホップ)」についての記事に行き当たったのである。続きを引用してみよう。
「まず彼らが生まれた神奈川県川崎市という街について軽く語ろうと思います。川崎市と言うのは細長い地理になっていまして主に北部(内地の方・西側)と南部(海の方・東側)に分かれています。
川崎駅は南部の端っこの方にあってその周辺には大きな風俗街や競馬場、団地などがあり、そこから更に海側に行くと工業地帯が広がっています。この最南端周辺の出身の人達の中には特殊な家庭環境で育った人がけっこう多いです。
それが理由かどうかは定義できませんがこの辺はとにかく治安が悪い。駅の大きな商店街、『仲見世通り』や『銀柳街』なども夜中の時間は路地とかにはあんま入らない方がいいです。
さらに駅より海側、この辺は住んでいる人以外は知り合いがいない限り深夜に歩く事などまずないかと思いますが、夜中のあの雰囲気は中々ディープな空気が漂っておりそれはある意味川崎の魅力(?)でもあるのかもしれません。
彼らはその川崎市南部育ちで、曲中でも語られていますがメンバーは皆“普通”の少年時代を過ごしておらず、川崎が『HIPHOPの聖地』と言われるのもそういった反骨精神が生まれやすい土地柄もあるのかもしれません。
もともとHIPHOPのルーツ自体が恵まれない環境下にいた『持たざる者』達の文化ですから、そう言った人達のカウンター的エネルギーが何か1つの目標に向けて走り出した場合、とんでもない力を発揮するのは先人達が証明済みです。」(『レペゼン社会不適合者』)
川崎といえば、批評家の「壱村健太」氏を思い出す方々も多いだろう。旧ツイッター(X)における彼の「言論」を適当に引っ張ってみよう。
壱村健太
@ichimura_kenta
36年間、横浜市の東部、川崎の南部、東京都大田区、品川区あたりが主な生活圏であるため、ぜんぶ「ここ」の話だからね、自分の書く文章や考えること。日本?世界?知るか馬鹿って感じ。都会/郊外版のハイデガー的な感じでいきたい。地方や田舎や農村のことは、知らん
壱村健太
@ichimura_kenta
SNSでクソリプを飛ばしてくる男たち、これはもう五億パーセントひとり残らず童貞である。童貞はSNSというかインターネットやるの、法律で禁じたほうがいいと思う。害悪でしかないので
壱村健太
@ichimura_kenta
あと、2ちゃんやら5ちゃんやらの匿名掲示板で差別主義的な言説を撒き散らしている男性たち、これもひとり残らず童貞である。間違いない。さっさと法律で禁じるべき。世の中の童貞の大半はみずからの発言に責任がとれない「お子ちゃま」なので
壱村健太
@ichimura_kenta
俺が……女性と……セックスができない…こんな〈世界〉ならな………さっさと無くなっちまえばいいんだよぉぉぉ!!!!(中年弱者男性たちによる拡大自殺型テロリズムのもっともシンプルな動機)
壱村健太
@ichimura_kenta
「批評家が大卒者に偏っていると主張するひとのホームを見に行ってみたら神奈川県の川崎出身らしく、広義の東京中心主義者である。「地方」の問題を考えていない。実質大卒批評家たちと同じ穴の狢(むじな)である」みたいなツイートを見かけた。たぶん自分のことである
壱村健太
@ichimura_kenta
命懸けやぞ!!俺みたいな3K底辺職ブルーカラー労働者がかなりハイレベル(?)な読書を日々するのは文字通り命懸けなんやぞ!!それも知らずにお前らみたいな超高学歴ホワイトカラー連中が呑気に好き放題(低学歴は本読まないからクソバカwwマジウケるwwみたいなこと)いいやがって〜〜〜〜〜〜〜
壱村健太
@ichimura_kenta
ほんっとに嫌だ。おんなじような(社会階層に属する)連中が集まっておんなじような本読んでおんなじような話をダラダラダラダラしてんの。だって「面白くない」じゃん、そんなの。つまんないと思わないのかよ。もはや謎だよ、ふつうに
壱村健太
@ichimura_kenta
だいたい、人間に個性なんかいうほどないから。趣味や関心がどれだけ違ってても所属する社会階層が同じだった場合、だいたい同じようなことしか言わないからね、マジで
壱村健太
@ichimura_kenta
なーにが「他者」だ、いっちょまえに、馬鹿タレ。お前らみたいなもん、生まれてから死ぬまで一生自分とおんなじような社会階層の連中とつるんでるだけじゃねーか、馬鹿、〇ね
壱村氏は、我々のような「第四の言論」に属する人間を好みはしないだろう。だが、書いていることを読む限り、その「魂」は我々と同じである。少なくとも、私(筆者)はそう感じた。BAD HOP(バッドホップ)を生んだ川崎は、言論においてもやはり同じような「反骨」の精神を生み出すようである。
BAD HOP(バッドホップ)の別の記事を見てみよう。
「1995年生まれの双子の兄弟、T-Pablow(ティー・パブロ。以下パブロ)とYZERR(ワイザー)を中心とするBAD HOPは、本家アメリカの不良もかくや、という感じの不穏なムードが漂う8人のクルー。基本、保育園のころからの幼馴染みで、全員、少年院の経験者ともいわれている。
「Black Bandana」という曲ではワイザーがこんなリリックをうたっている。
『小2の頃にはタバコをふかし 金髪でスカジャンの友達/むかつく奴ら頭かち割り 周りの大人背中に刺青/13の頃には立派な犯罪者 用意周到乗り込むヴェルファイア/人を傷つけてはまた得る快楽 真面目ちゃんがベッドで寝てる間/朝まで溜まる中留公園 また檻のなか悲しむGirl Friend/出てきてすぐおまわりとCar Chase 行ったり来たり遠回りの人生』(Lyric by YZERR & Bark)
パブロとワイザーによる双子兄弟のユニット、2WINのアルバム「BORN TO WIN」におさめられた「PAIN AWAY」では自分たちの家庭環境がつづられている。
『家庭の中は気づきゃ沈黙か罵声 一家心中はかる深刻な家庭/突き刺さった刃物 涙なしじゃ寝られないね今日も/多額の借金抱えた母子家庭 怒鳴り散らしてるヤクザの取り立て/真夏なのに布団かぶって震えてた あの日描いた夢は崩れてない ひたすら環境を恨んだ そんな俺育ててくれたグランマ/その優しさ裏切りグレた反抗期 盗んだバイクまたがりすする缶コーヒー(略)』(Written by T-Pablow & YZERR)」(『GQ JAPAN』)
このような環境にあった彼等を広い世界に連れ出したのが音楽であり、ヒップホップだったのだ。ここで、改めて「ヒップホップ」とは何なのかを、ウィキペディアに訊ねてみよう。
「単に『ヒップホップ』と呼んだ場合、サンプリングや打ち込みのバックトラックに、MCによるラップを乗せた音楽を指すことがあるが、これらはヒップホップ・ミュージックと呼ぶのが正しい。これに『ブレイクダンス』と『グラフィティ』などを加えたものが本来のヒップホップである。ヒップホップにおいて、ラップ(MC)、DJプレイ、ブレイクダンス、グラフィティは四大要素と呼ばれる。
これらはアメリカのストリートギャング文化とも関係があるといわれ、抗争を無血に終わらせるために、銃や暴力の代わりとしてブレイクダンスやラップの優劣が争われた。ラップ、DJプレイ、ブレイクダンスには、フリースタイル・バトルと呼ばれる対決方式も存在する。その後、発祥地アメリカだけにとどまらず、ブレイクダンスを踊ったり、グラフィティをアートとしてとらえたり、ファッションにも影響を及ぼすなど、ヒップホップ文化は、欧米、日本をはじめ世界各国に広まった。
これにアフリカ・バンバータが加えた『知識』までを五大要素、さらにKRS・ワンが提唱した『ビートボックス』とストリート文化『言語』、『服装』、『起業精神』を含むと九大要素と呼ばれる。」(ウィキ)
なかなかのものである。もちろん活動の「次元」が違うので、これらをそのまま「第四の言論」すなわち「喧嘩界」にもってくることはできない。だが、参考にはなるだろう。ここでは、ヒップホップ・ミュージックにおける「サンプリング」に注目して、その文学への拡張性と可能性を考えてみよう。