夏休みも、気がつけば折り返しを過ぎていた。
暑さは相変わらずだけど、夕方の風が少しだけやわらいで、蝉の声も心なしか遠くなってきた気がする。
今日は、久しぶりに陽子と果歩と三人で集まって、カフェでのんびり過ごす予定だった。店内は冷房が効いていて、外の熱気が嘘みたいに快適で、冷たいアイスティーのグラスを指でなぞるだけでも、なんだか少し落ち着いた。
「てかさ〜、知ってた? 野球部の藤井くんと、チア部の清水さんが付き合い始めたらしいよ」
果歩が声をひそめながらも、妙にテンション高く言った。
「えっ、あの清水さん? マジ…!?」
陽子が目を丸くして応じる。
「まじ? あの二人って接点あったっけ?」
私はアイスティーを一口飲みながら、あまり興味なさそうに相槌を打った。
「ほら、野球部の県大会で、チア部が応援に行ってたでしょ? それで藤井くんがホームラン打つから見ててって清水さんに言ったら、ホームラン入っちゃって!それがかっこよかったから、付き合うことにしたんだって〜」
本人たちしか知りえない情報を、果歩はいつもどうやって手に入れてくるのか。私はそれがいつも不思議で仕方がなかった。
「てかさ〜、夏休み入ってから何組カップル誕生してんの? なんでみんなそんなに恋してんの!? いいないいな! アタシも恋したい!」
果歩は大げさに両手を上げながら、テーブルに身を乗り出した。
「ほんと飽きないね、果歩って……」
思わず苦笑する私に、陽子がふと真面目な顔で口を開く。
「でも莉奈って、ほんと恋愛に興味ないよね。なんでそんなに嫌いなの?」
唐突な質問に、私は少しだけ言葉に詰まった。でもすぐに、いつものように平静を装って答える。
「いやだって、恋愛ってただの一時の感情でしょ。振り回されたり、心乱されたり、下手したら人生まで狂わされる。そんなの、時間の無駄だよ」
「うーん……そんなつらいことばっかりじゃないけどなぁ」
果歩が少し眉をひそめて言うと、陽子も静かに言葉を重ねた。
「わたしは……恋愛で、救われたこともあるよ。辛い時、誰かがそばにいてくれたって、すごく……」
「でも陽子、去年の失恋で大泣きしてたの、わたし忘れてないからね」
思わず口に出したその言葉に、陽子の表情が一瞬で固まる。
「……うっ、それは、まあ、そうだけど……」
果歩も気まずそうにストローをくわえたまま黙りこくる。
私は二人の間に落ちた沈黙を、少し申し訳ない気持ちで見つめながらも、でも本心だった。
「わたしはさ、恋愛なんかより、友達と一緒に過ごす今の時間のほうが、ずっと大事だと思ってる。誰かのことで泣いたり、悩んだりするくらいなら、こうやって笑ってたほうが絶対いい」
そう言い切った瞬間、自分の胸に少しだけ生まれた違和感に気づいたけれど、気づかないふりをした。
このまま、何もなければいいのに。
何も、起こらなければ。
でも――そう思えば思うほど、心の奥に沈んだ名前が、ふいに浮かんでしまうのだった。



















