「かき氷が食べたい!」
そんな陽子の言葉に半ば強引に連れてこられる形で、私はファミレスに連れてこられていた。
夏休みの午後。涼を求めた人々で、店内はいつも以上に混み合っていて、通されたボックス席もかろうじて空いていた最後の一席だった。
大きな窓から差し込む陽射しは、ガラス越しでもじりじりとした熱を感じさせる。だけど、冷房の効いた空間と、グラスの中で溶ける氷の音が、それをどこか遠いものにしてくれていた。
陽子は運ばれてきたメロン味のかき氷を嬉しそうにスプーンですくっている。口元をうっすら緑に染めながら、「うん、これ当たりだわ」と一人で満足げに頷いていた。
私はというと、ドリンクバーで注いできたばかりのオレンジジュースを手に、プリントを広げてぼんやりと文字を追っている。宿題の続きをやろうと思っていたのに、集中するには少し賑やかすぎたかもしれない。
「……でさ、結局その“図書館の彼”とは、それっきり?」
スプーンを口元に運びながら、陽子がこちらに視線を投げかけてくる。
私は、グラスを置きながら小さくため息をついた。
「“図書館の彼”って……言い方やめて。課題の本を一緒に見てただけだから」
「いやいや、そんなかっこよく助けてもらったあとに、たまたま図書館で同じ本に手を伸ばして、勉強教えてくれるって、もうそれ少女漫画のやつじゃん? 運命以外考えらんないでしょ!」
「だから、そういうのじゃないって……」
「だからちが――」
その瞬間だった。
陽子の背後、店内のドリンクバーの方から、ふと視線を感じた。
そちらを見ると、ちょうどグラスを手にした男性がこちらのテーブルの横を通りかかったところだった。
一瞬、目が合った。
――高宮さん。
彼も、私の顔を見て驚いたように目を丸くした。
「あれ……」
小さくそうつぶやいて、彼は立ち止まった。
そのすぐ後ろには、彼のお友達らしき人の姿もある。
「どうしたの?」
陽子が私の視線に気づき、振り返ってその先を確かめた。
高宮さんは「どうも」と会釈をして、わたしたちを見ている。
私は何を感じたのか、慌てて彼から視線を外し、興味もないメニュー表を眺めてしまっていた。
「奇遇だね。ここで会えるなんて」
グラスの中にコーヒーらしき飲み物を入れたまま、高宮さんがこちらへとやってきた。
私はゆっくりと視線を戻し、少しの恥ずかしさを感じながら、声を返した。
「はい……びっくりしました」
「ここでも勉強?」と机の上に広げられたプリントを見て、高宮さんが笑っている。
わたしは慌てて隠すようにプリントをたたんで、カバンの奥に押し込んだ。
そんな普段とは違う私の様子を見た陽子が、何を思ったのか、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら、高宮さんたちに声を掛けた。
「良かったら、わたしたちに勉強教えてくれませんか? テーブル広いし」
「えっ、ちょっと何言って…」
私は慌てて陽子の袖を引っ張ったが、彼女は全く動じない。むしろ口角をさらに上げて、挑発するような笑みを浮かべていた。
すると、高宮さんの隣にいた男性が――穏やかな目元に人懐こい笑みを浮かべて、軽く首をかしげた。
「いいの? じゃあ、遠慮なく」
そして、気がつけば――
私たちのボックス席に、二人分の新しい影が加わっていた。

















