06
事故が起きてから三日後の朝。
ひなのは静かに息を引き取った。
わずか18歳という若さだった。
葬儀は彼女の実家で執り行われ、そこで初めてひなのが同級生の横山に渡した手紙を、彼自身から預かって読むことが出来た。
そこに書かれていたのは彼女がこの数ヶ月で抱え込んでいた怒りや苦しみ、恐怖、絶望といった負の感情の数々。
ひなのは、見知らぬ男に無理矢理襲われていた。
泣き叫びながら周りに求めた助けの声も、元々の顔の小ささも相まって、男の大きな手に簡単に抑えられてしまった。
皆で集まって彼女の功績を称え、ケーキを食べ合った、次の日の出来事だった。
その内容に美玖は溢れんばかりの悲しさと、彼女の異変に寄り添ってあげられなかった悔しさで涙が止まらなかった。
その横では膝から崩れ落ちて泣きじゃくっている横山を支えるように、須崎が彼を抱きしめていた。
そんな彼を見て、美玖はあの時、屋上に立って校舎から飛び降りようとしたあの日。
どうして自分は"生きること"を選んだのか。そんなことを考えた。
ただ単にあの瞬間を教師に見られてしまったから、諦めた。それは間違いがない。
だがそんなことも気にせずに足を外に踏み出すことは、やろうと思えば出来たはずだ。
だけど美玖はそれをしなかった。
それは何故か。
『ねえ、アイス、食べない?』
あの時、彼が声をかけてくれた時。
初めて自分の心の奥底を誰かが覗きに来てくれたような気がした。
この人が、この人なら、暗く沈んだ闇の中にいる自分を救い出してくれるかもしれない。
そんな淡い期待を抱きながら、美玖は差し出されたその大きな手に、手を伸ばしたのだ。