最終章
03
「みんな家まで送っていくよ」

 この中で唯一、車を持っている須崎が皆にそう言った。

 彼女が目を覚まさない今、これ以上待っていても何も出来ないことを仕方なく思ったのだろう。

 だが彼が持つカローラはそんなに大きな車ではないため、ぎゅうぎゅうに詰めたとしても、せいぜい4、5人が限界だった。

 須崎は先に久美と綾人、そして3年生の二人を先に送り届けてから、美玖たちを迎えに来ると言った。

 だが始は美玖の手を握ると、彼の申し出を払い除けるように断った。


「いえ、僕たちはタクシーで帰ります」


 その言葉に須崎は始ではなく美玖に目を向けていたが、俯いて視線を交わそうとしない彼女を見て、始の方を見て、気を付けてとだけ告げた。


「行こう」


 始が腕を掴み、半ば強引に歩かされながら美玖は須崎を振り返って見ていた。

 どんどんと離れていく彼の姿は、とても小さく、今にも押し潰されてくしゃっと割れてしまいそうな、どこか寂しげな空気が漂っているような気がした。

黒瀬リュウ ( 2021/11/10(水) 01:25 )