01
秋も過ぎ去り、空気がすっかり冷え切ってしまった冬の夜。
半同棲生活を続けていた二人は、その夜、始の親戚が送ってきたという蟹を使って鍋を作ってそれを一緒につついていた。
料理に関しては基本的には美玖が行うのだが、今日は機嫌が良いのか、珍しく手伝うと言い、始が野菜を切ってくれた。
形も大きさもバラバラではあったが、蟹の良い出汁と共同作業という幸福感から、味はとても美味しく感じた。
美味しそうに鍋を食べ進める彼女を見て、始は一度箸をテーブルの上に置いた。
「ねえ、お正月なんだけど、良かったら一緒に実家に行かない?」
「えっ?」
「いや、親父がまた美玖に会いたがっててさ。ちゃんとメイにも紹介出来てないから、また一緒に行ってくれないかなって」
「うん、ぜひ!」
彼からの誘いに二つ返事で首を縦に振ると、始は嬉しそうに微笑みながら、安心したのか再び箸を手に取り、鍋をつついた。
「よかったあ、じゃあ三が日は開けておいてね」
「うん、わかった」
彼が喜んでくれる姿を見て、不思議と美玖も嬉しく思うようになっていた。
そんなことを思いながら、食事を楽しんでいると、テーブルの上に置かれた彼女の携帯がバイブレーションを鳴らしながら、震えていた。
美玖は携帯を手に取り、着信元の画面を見ると、ゆっくりその画面を閉じ、再びテーブルの上に置いた。
だがそれでも何度も震え続ける彼女の携帯に、始は出ないのかと問いかけた。
「うん、大丈夫…」
そう言って食事を続ける美玖の代わりに、始は彼女の携帯を手に取ると、勝手に画面を開き、その着信元を確認してから、勝手に通話ボタンを押して、彼女に突き返してきた。
また彼を怒らせてしまったのだろうか。
美玖は恐る恐るそれを受け取り、受話器に耳をつけた。
「もしもし」
電話越しに聞こえてきた人物の第一声に、美玖は握っていた箸を思わず床の上にぽとっと落としてしまった。