04
晩御飯だけ一緒に食べて帰るつもりだったが、その日は結局ご飯も食べずに、数時間も彼に抱かれ続けた。
最後に至っては向こう側も非常に疲れ切っているようだったが、彼の気がそれで済むのならと、美玖は半ば諦めにも近い感情で、静かに抱かれた。
翌日、一度家に帰ってシャワーを浴び、服を着替えてからすぐに家を出た。
この日は午前から出席しないといけない講義をとっており、いつもと違う時間帯に家を出てしまったため、遅刻ギリギリだった。
駅に到着し、地下にあるホームに降りると階段付近の電車の到着を待つ人の列に並んだ。
昨夜はあんなにも取り乱している始の姿を見たのは初めてだった。
全てが終わったあと、横たわる彼からバイト先で上司と揉めてしまい、そのイライラを思わず美玖にぶつけてしまったのだと謝られた。
自分が悪い。自分が彼を心配させるようなことをしたのがいけないんだ。
そう思い込むことで、この胸のモヤモヤを晴らそうと思いながら、電車を待っていると、背後に誰かが立ったような気がした。
後ろを軽く見ると、黒いニットキャップを被った男が美玖の真後ろに立っていた。
最初は向こうも同じ列車を待つただの乗客かと思っていたが、それにしては前に立つ美玖と男との距離は非常に近いものだった。
少し不信感を抱きつつ、到着した電車に乗り込むと、中は通勤ラッシュの満員電車となっており、中に入ることも難しかったが、なんとか僅かな人の隙間を掻い潜って乗降口の前に立った。
こんなことだったらシャワーぐらい始の家で借りてくればよかったと後悔していると、乗降口の窓ガラスの反射で先程の黒ニットの男が、また美玖の真後ろに立っていることに気づいた。
恐らくたまたまだ。何も深く考える必要はないと、自分を落ち着かせようとしていると、自分の臀部に人の掌が当たった感覚がした。
この満員電車の中でたまたま当たってしまったのかと思ったが、その手は確実に臀部に向かって内側を向いており、それに触れると、広がるように掌を尻の上で撫で回してきた。
満員電車では痴漢事件のリスクが高まりやすい。そんな話を聞いたことはあったが、まさか自分がその当事者になってしまうだなんて思ってもいなかった。
恐怖で言葉が出てこない。
隣に立つ40代ぐらいのサラリーマンに助けを求めたかったが、緊張し、予想外のことが起きると、言葉が出なくなってしまう元々の性格で、声を発することができなかった。
ロングスカートの中に手を入れられ、下着越しに臀部を撫で回されている。
不快感と恐怖心に震えていると、ちょうど次の駅に到着し、目の前の乗降口が音を立てて開いた。
降りる駅はまだまだ先の方であったが、美玖は慌てて列車から飛び降りると、人混みを避けながら、走って駅の外へと飛び出した。