01
その日は大雨が降っていた。
この大雨の中、スクールバス無しであの坂道を登るのは考えられず、美玖はなんとか無事に音楽室までたどり着いた。
だが教室内には彼女以外誰一人そこにはおらず、理科準備室も訪れたが、そこには鍵がかかっていた。
時間になっても誰も集まらなかったため、久美に電話をかけると、今日は須崎が急用のため、練習は休みになったと言われた。
仕方が無いので再びスクールバスに乗り、麓まで降りた彼女は、久々に隣町のCDショップへ足を運ばせた。
顔馴染みだった店長に久しぶりに顔を合わせ、いつものように音盤を見て回っていると、店長が自らおすすめの音盤を手に彼女の元へやってきた。
「これ、いいやつ入ったんだよ」
「これは…?」
店長が手渡してきたのは絶版となって世界中に数十枚しか流通してないという幻のレコードであった。
値段を聞くと、とても学生の彼女が手を出せるような金額ではなかったが、出世払いにと店長の計らいで譲り受けてしまった。
この大雨の中、レコードを濡らすわけにはいかないと、ジャケットごと箱に梱包してもらい、それを大事に抱えながら店を後にした時、彼女の携帯に着信が入った。
画面を開くと、急用で休んだはずの須崎の名前がそこに載っていた。
「もしもし?」
『もしもし、急にごめん。金村、免許持ってた…?』
「持ってますけど、どうして?」
『実は車で出てきたんだけど、ちょっと飲んでしまって、動けなくなってしまったんだ…。申し訳ないんだけど、代わりに運転してもらえないかな…』
受話器越しに聞こえる彼の声をとても弱々しく、強く握ったら潰れてしまいそうな花びらのように儚いものだった。