04
食事会が終わり、夏休みが終わる前に行われる演奏会で何を演奏したいか、皆で相談しながら黒板に楽曲を羅列させていた時間は、なんだか二年前の高校時代に舞い戻ったような気がして、美玖にとっても最高に楽しい時間だった。
ひとまず初日は祝勝会とミーティングだけで終わることになり、ひなのと横山が黒板を記録としてスマホで撮影してから、その文字を消していた。
「おつかれさま」
「あっ、美玖センパイ。おつかれさまです」
「ひなのちゃんはもう帰るの?」
「私はもうちょっと練習をしてから帰ろうかなと」
「えっ、それじゃあ俺も、ひなのが残るんだったら残ろうかな」
和気藹々と楽しそうな若者たちの邪魔をしてはならないと、美玖は早々に音楽室を後にした。
それから彼女が向かったのは、もちろん理科準備室であった。
コンコン。
二年ぶりにそのドアをノックする。
いつものようにどうぞと優しい返事が返ってきた。
美玖はゆっくりとそのドアを開け、中へ足を入れた。
「久しぶり。ちょっと時間あるなら、話していかない?」
「はい」
彼女はまたゆっくりとドアを閉め、いつものように彼が準備した木箱の椅子の上に腰を下ろした。
二年前から思っていたがこの椅子は決して座り心地がいいわけではない。だが彼の側に、少しでも近くに居れることが叶うだけで、それだけで充分満足だった。
須崎は他の職員から貰ったという紅茶のティーバッグを取り出すと、それを二つのカップに入れ、紅茶のエキスがお湯一面に広がっていくのを待ってから、それを彼女に差し出した。
それを受け取った美玖はよく息を吹きかけて、少し冷ましてから口にすると、全く同じことを須崎がしていたことに気付いた。
「こうして会うのは卒業式以来か。元気にしてた?」
「まあ、それなりに。ふふっ、先生は?」
「うん、まあ、それなりに」
同じ反応をして見せた彼に笑顔が溢れ、笑いが起きた後、少し落ち着いて、再び二人の間に沈黙が流れた。
どちらが先に話し出すか、少し探り合いの状態になっていた。
いつもであれば彼の方から全く脈絡もない話題を振られてくることが多いのだが、この日は美玖から口火を切られることになった。
「最近、レコード買いました?」
「あっ、僕も同じこと聞こうと思ってた」
須崎も彼女から話し出されると思っていなかったのか、いつもより少し反応に遅れた。
「私は最近、『ジャズ・イン・USA』聴きました」
「"ソニー・クリス"だ。相変わらず渋いのが好きだね」
しかしその会話も長くは続かず、再び静寂が訪れた。
あの頃はあれだけ饒舌に話せて、話しても話し足りないぐらい毎日会話が続いていた相手なのに、たった二年会わないだけで、こうも会話が下手になるのかと、美玖は少し気持ちが沈んだ。