01
ポツポツと雨が降り出した。
屋上から見える景色は雲が少しずつ澱んでいき、校庭で声を掛け合いながら練習をしているサッカー部やテニス部たちは、雨に大騒ぎし、片付けを始めていた。
ここに来たのは今日が初めてではない。何度も何度もこの場所に立って、ここからの景色を眺めては、校舎の中へ戻って行っていた。
だが今日は違った。
今日だけは何故か校舎に戻りたいという気持ちが湧き上がってくることはなかった。それどころか両手を広げて、ここから飛び出せば、あの先を飛ぶ鳶のように大空に飛び立つことが出来るのではないかと、そんな気さえしていた。
金村美玖は雨に体を濡らされながらも、傘も差さずに屋上のへりに立ち、両手を広げた。
自分が一人、世界からいなくなったとしても、世界は何事もなかったように続いていくだろう。
ならこの青空に羽ばたいたって、誰も気にもしない。
絶望にも近い感情を抱きながら、その身を少しずつ外へ向かわせようとしたその時。
「ねえ」
突然、低い声が彼女の背後から聞こえた。
慌てて振り返ると、眼鏡をかけた一人の男性教諭がこちらをじっと見つめている。
最悪な瞬間に見つかってしまった。きっと怒られるだろう。
そう覚悟を決めていたが、彼から次に発せられたのは、彼女が想像もしていなかった一言だった。
「アイス、食べない?」