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それから篠田は勉強の手を一旦止め、友人との話を全て小坂に話した。
学校で浮いていた自分に唯一声をかけてくれたかけがえのない友人であること。
そんな彼が半グレ集団と関わりを持ってしまっていること。
自分としては彼を助けたいが、それは同時に彼にとっても迷惑なことなのではないかと思ってしまうこと。
隠すことなく洗いざらい全て伝えた。
彼女は何も反応することなく、ただ黙ってうんうんと頷きながら、彼の辿々しい手話を見て、内容を汲み取っていた。
[俺は、どうしたらいいかな…?]
答えなんか求めても、回答に困らせてしまうだけだ。
そんなことは分かっていたが、心の中で少し背中を押してもらいたいと言う気持ちが、彼の中にあった。
[あなたがしたいと思うことをすればいいと思うよ]
彼の問いかけにようやく彼女が答えてくれた。
そう言われるのはなんとなく分かっていた気がした。
いや、むしろそう言って欲しかったのかもしれない。
小坂の言葉を受け、篠田は彼女にありがとうと手話で伝えると、勉強道具も全て置いたまま、図書館から飛び出していった。
走っていく彼の後ろ姿に、小坂は小さく頑張れと両手を丸めて、エールを送っていた。