09
それから数日が経った。
その日も篠田は小坂と二人で図書館にて勉強会を開いていた。
だが緒方のことを考えていた彼は心が図書館とは全く違う場所に置かれているようであり、前回はあんなに進んだペン先も全く動かなくなってしまっていた。
彼の様子がおかしいことは、小坂も何となく感じており、心配に思った彼女は、彼に何かあったのかと手話で尋ねた。
彼女の問いかけに、篠田はすぐに笑顔を作って何でもないと返したが、彼が無理をしていることは小坂にはすべてお見通しだった。
彼女は篠田の手元のノートに手を伸ばして、それを閉じさせると、自分の話を聞くようにと伝えてきた。
[全部、自分で抱え込もうとしないで]
「えっ…」
彼女の"言葉"に篠田は思わず固まってしまった。
彼女は悩み事はずっと抱え続けていると、いつかパンクしてしまい、自分が壊れてしまう。だからそうなる前に誰かに話すべきなんだと。
もっと誰かに頼ったっていいんだと彼女は真剣な表情で"話してくれた"。
「そっか、そうだよな…。うん、ありがとう。あっ…」
思わず口で返してしまったその言葉を、篠田はきちんと手を使って返した。
彼女はそれを受け取ると、嬉しそうに微笑んでくれていた。