第六章『確証』
06
 全く手につかなかった勉強も誰かと一緒に行うと、驚くほどの集中力が備わるようになり、進まなかったペン先もなんとか進みだすようにまでなっていた。

 だんだんと問題を解くということの楽しさに気付くようにまでなり、分からないところがあれば、正面に座る小坂に解き方を教えてもらう。

 今までまともに勉強などしてこなかった篠田であったが、興味が沸き上がることにはとことん突き詰める上、さらには飲み込みもよいという元々のポテンシャルも功を奏し、本人が想像していた以上に勉学に対して前のめりの姿勢になりつつあった。


 一つの問題で立ち止まり、頭を悩ませていると、斜め前に座る丹生の方から何やら小さな紙を差し出された。

 何事かと思い、顔を上げて彼女の方を見ると、視線と表情筋を使ってその紙を見ろとアイコンタクトを送ってきている。

 最初は何がしたいのか全く汲み取れなかったが、その視線がそれに向けられていることに何となく気づき、山折りにされたその小さな紙を開いた。


[菜緒ちゃんとは、もうチュー済ませたんですか?]


 女の子らしい丸文字で書かれていた手紙の内容に、篠田は思わず体の中にあった空気が全て逆流した感覚に襲われ、激しくむせてしまった。

 突然正面で咳き込む彼の姿を、事情を知らない小坂が心配そうに見ていたが、篠田は慌ててなんでもないと手振りを返した。

 手紙を渡してきた当人はそれを面白がるようにニコニコと笑っている。

 ヘラヘラと笑いながらもとんでもないことを突然ふっかけてきた彼女に少し恐怖を抱きながらも、篠田はその文字の真下に新たに文字を書き起こした。


[何もないですよ!そもそも小坂さんとはただの友達なんで!」


 それを書いて丹生に突き返すと、彼女はすぐにその手紙の内容を確認すると、怪訝そうな顔を浮かべて、またノートの切れ端をちぎって、新しい紙に文字を書いてから、篠田に渡してきた。


[じゃあ、まさかの金村が本命ですか?!]


 コイツは何を言っているんだ。

 素っ頓狂な質問に、一瞬思考回路が停止しかけてしまったが、ふと先日呼び出された時の金村の少し震えた手と無理に笑ってみせていた展望台の時のことを思い出した。

 どうしてあのとき、彼女は手を震わせていたのだろう。

 そんなことを考えながら、丹生にそれも違うと返答を返すと、彼女は不満そうに頰を膨らませていた。

黒瀬リュウ ( 2021/11/06(土) 17:00 )