03
喧嘩騒動で渋谷署に連行された篠田は、取り調べに素直に応じ、情状酌量の処置として厳重注意という形で処分されることになった。
署の外に出ると、辺りは日が沈んでから間もない様子で、少し暗がりを見せ始めていた。
少し歩くと所の門の前で金村が一人、壁に背中を付けたまま立っているのが目に付いた。
「ごめん、巻き込んじゃって」
彼女の元へ近づき、篠田がそう口にするとと、彼女はううんと首を横に振る。
「巻き込んだのは私の方。元々は私の不注意だったわけだし」
「でも警察沙汰にまでなっちゃったのは俺のせいだから」
自分の首筋を撫でながら恥ずかしそうに笑うと、彼女は嬉しそうに少し微笑んだ。
「ありがとう、助けてくれて」
「いや、どうってことはないよ。あっ、それより帰り大丈夫?こんな遅くなっちゃったけど」
「大丈夫。家族が迎えに来てくれるって」
「そっか、よかった」
門のど真ん中で話していると、巡回を終えたらしきパトカーが一台、道路から渋谷署の中に入ろうとしているのが金村の背中越しに目についた。
篠田は彼女の腕を引き寄せると、歩道の脇へと連れて行き、彼女を建物側へと引き寄せた。
突然腕を掴まれた金村はえっと少し驚いていたが、それ以上何も言うことはなく、素直に彼に従っていた。
腕を掴んだことで自然と距離が近くなってしまったことに篠田は慌てて、彼女の腕を離して、悪いと謝った。
二人の間に少し沈黙が流れる。
だが居心地の悪さというのものは、不思議と金村は感じていなかった。
よって沈黙をいち早く破っていったのは篠田の方からであった。
「じゃあ、俺そろそろ帰るわ」
「あっ、うん」
「ここで待ってれば、たぶん大丈夫だと思うけど、気を付けて帰れよ」
「うん」
「じゃ、じゃあ」
どうしてこんなにもぎこちない話し方になってしまったのか自分でも分かっていなかったが、篠田は普段より少し足早に渋谷署の前を後にした。
金村は少しずつ遠くなっていくその後ろ姿が見えなくなるまで、ずっと見つめ続けていた。