03
退屈かと思っていた博物館探索は、恐竜博士の解説が思いのほか興味深く、2時間も楽しく過ごすことが出来た。
ある程度、展示を見て回った二人は売店に立ち寄り、どんな商品が置かれているのか、一緒に見て回った。
「すごいなぁ。あっ、ほら、化石のレプリカだって」
この2時間に打ち解けることが出来た二人は、ボディーランゲージで何となくの会話が多少出来るようになっていた。
お土産用の恐竜の化石のレプリカを手に取り、それを小坂に手渡すと、彼女は目をキラキラと輝かせて、受け取った。
そんな彼女を見て、篠田は少し懐かしさを感じていた。
子供の頃、同じように恐竜が好きだった彼は、よく父親に博物館や展覧会などに連れて行ってもらい、小坂と同じようにキラキラとした眼差しで、様々な化石に目を向けていたことを思い出した。
そんな時、ふと一つの疑問が彼の頭に浮かんでいた。当時、父親に連れて行ってもらっていたのは自分と他にもう一人、誰かがいたことを思い出したのだ。
それが一体誰だったのか、顔も全く思い出せなかったが、その人物と父親と3人で博物館を見て回ったことを思い出した。
そんなことを思っていると、小坂と一緒に来ていたはずの金村がどこかに居なくなっていることに気付いた。
篠田は小坂にここで待っているようにと、合図をして、展示スペースへと戻っていった。
家族連れや恋人同士で回っている者が多い中で、女性で一人ポツンと展示スペースに立っている彼女を見つけるのは、容易な事だった。
ティラノサウルスの巨大な骨格標本を見上げ、1人立ち尽くしている金村の隣に、篠田は並ぶように立った。
「いた。どこに行ってたんですか」
「あっ、ごめんなさい。2人を邪魔しちゃ悪いかなって」
「別に邪魔なんかじゃないけど」
彼の言葉に金村は少し口角を上げ、恐竜の化石を見つめていた。
そんな彼女の眼を見ると、小坂ほど少年のようにキラキラしているわけではなかったが、好奇の眼差しでそれを見つめていることに気付いた。
「あんたも、恐竜好きなの?」
「菜緒ほどじゃないけど。あれ、そういえば菜緒は?」
売店で待ってもらってると伝えると、ふうんと一つ小さく頷いて、金村は展示スペースから歩き出した。
篠田はそんな彼女の背中を見つめ、彼女が何を考えているのか疑問に感じたまま、彼女の後を追った。