第二章「彼らは」
08
 立川に渡された義母が忘れたと言う口紅を軽く指先につけ、それを唇にとんとんと当てた。

 70を超えた老婆が持つにはかなり派手な色にも感じたが、実際につけてから鏡を見てみると、案外悪く無かった。

 身だしなみを整え、ドアを開けると、襟元をバタバタとさせ、風を仰いでいる彼がそこにいた。

 会うのは同窓会ぶりではあったが、なんだかとてつもない緊張を彼女は感じていた。


「すみません、お待たせしちゃって」

「ああ、いや。急に押しかけたのは僕の方だから」

「どうしましょう。ここは無理なので、どこか近くの公園にでも…」


 そう言いかけた時、家の奥から立川がここを使いなさいと言いながら現れた。


「えっ、でも…」

「誰かに見られて、よく無い噂でも立てられたら困るでしょう?私は散歩に行ってきますから、後は"若いお二人"でごゆっくり」


 ボロボロのサンダルに足を通すと、来客に優しく微笑みかけてから、立川は家を後にした。

 "若い二人"と言われたが、二人とも既に40を超えている。

 お互いその言葉が引っかかり、なんだか少し気まずい空気が流れていたが、家主の言葉に甘え、彼女は鳴海を家の奥へと招き入れた。
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■筆者メッセージ
約1年ぶりの更新…笑

この作品も少しずつ更新を、再開していきますね。
黒瀬リュウ ( 2021/11/28(日) 01:26 )