07
時は少し遡り、祖父母の家に預けられている少女たち2人は、1人の男性から届いた手紙を真剣にまじまじと見ていた。
彼女たちの最近の楽しみは、彼から届く素敵な文章に載せられた初恋の想い出を、自分たちの妄想でイメージを膨らませながら教えてもらうことだった。
― 京子に言われ、僕は初めて君に手紙を書きました。誰かに手紙を書くなんて、初めてのことだったから、どう書いていいか分からず、何度も何度も、便箋の紙をくしゃくしゃに丸めては、ゴミ箱に向けて投げたことです。
< 20年前 >
日がゆっくりと学校の奥にある山の奥へと沈み始めていた夕暮れ時。古文研では月一の"今月自分が読んで感動した本"のプレゼン大会が行われているところであった。
担任教諭への用件で部活動に遅れて参加した鳴海は第2科学室の後方のドアをそっと開け、そそくさと1番後ろの席に座っている京子の横に腰掛けた。
彼女の横に座ると、徐に鞄を漁り、彼は一通の手紙をそっと彼女に手渡した。
「えっ…?」
突然の事に彼女も驚いた表情を見せていたが、手紙の宛名を見ると、あぁと声を洩らしながら、小さく頷いた。
「これ、お姉さんに渡しててくれるかな…?」
「まさか、本当に書いてきたんですね」
「書けって言ったのは君だろう?」
「しっ、先生に気付かれますよ」
悪戯っぽく微笑みながら、人差し指を自分の口に押し当てる彼女に、鳴海は少しムッとなった。