03
数日後、彼女は大型犬の一匹を乗せ、車を走らせていた。
あれから病院で検査してもらったところ、ただの"ぎっくり腰"だったことが分かった。
医者から説明を受けているときの、義母のバツの悪そうな顔は、今でも頭に浮かぶ。ひとまず長女の部屋で腰がよくなるまで休むことになった。
一、二時間ほどかけて走ってきたのは、夏休みの間、長女を預けている彼女の実家だった。
大型犬二匹を飼うには自分の家では限界があると感じた彼女は、ベラとビケのうちのベラを実家に預かってもらうことにしたのだ。
車から降りて、犬を後部座席から降ろすと、長女の真琴がおぉっと声を上げた。その後ろでは母が同じように驚きの声を上げていた。
「かなりおっきいのね」
「しばらく預かってもらえないかな。うちじゃ二匹は狭すぎて…」
「"しばらく"ってどれくらい?」
その問いかけに、彼女はふふっと濁して笑うしかなかった。それを察したのか、母親の表情が一変した。
「無理よ、そんなずっとだなんて」
「そんなこと言わないでよ、他に頼める人いないんだから」
「だって育てるにもお金がかかるでしょう?うちはもう手一杯よ」
押し問答で一歩も譲らない大人二人を見かねたのか、真琴の従姉妹が小さく手を挙げた。
「あっ、私、お世話します」
「いいの…?」
「はい、ちゃんと責任もってこの子育てます」
「あっ、じゃあ私も手伝う!」
従姉妹の言葉を受け、娘の真琴もそれまでベラを撫でていた手を止め、元気よく手を挙げた。
「あんたは夏休み終わったら帰ってくるでしょう?」
「そうだけど、私も手伝う!」
「おばあちゃん、お願い?」
可愛い二人の孫娘からのお願いに母も渋々、首を縦に振らざるを得なかった。