第二章「彼らは」
02
 見慣れぬ男性とともに歩く義母を追いかけると、二人は街から少し離れた丘の上の住宅街へとたどり着いた。何度も曲がり角を曲がり、何度か義母の姿を見失いそうになったが、必死に追いつき、二人が小さな平屋の一軒家に入っていくのを目撃することができた。

「やべえ、"真夏の情事"だよ!」

 小学校四年生にもなる男の子が、どこでそんな言葉を覚えてきたのかわからないが、恐らく父親が余計な入れ知恵を吹き込んだのだろうと思いつつ、彼女は手前の曲がり角に隠れると、息子にベラとビケのリードを持たせ、財布を取り出すと、小銭入れから百円玉を二枚取り出して、リードを持つ息子の手の上に置いた。

「あんた、これでジュースでも買って、先に家に帰ってなさい。あっ、お釣りで余計な物買っちゃだめよ」
「えー!なんで!もうちょっといたい!」
「駄目、こっからは大人の話だから。あんたは帰って宿題しなさい」

 ごねる息子の背中を押して、無理やり帰らせた後、彼女はゆっくりと平屋へ近づいて行った。
 義母の夫。つまりは義父は、五年前に他界しているため、彼女が誰とどのようにラブロマンスを楽しもうが、残された彼女の人生のため、問題はなかった。だが義理の娘として、事実をしっかりと確認しなければならないという衝動に彼女は駆られた。
 曲がり角を再び曲がり、平屋を確認しようとしたとき、問題の家屋の前に救急車がサイレンを回しながら停まっているのが確認できた。
 何事かと思い慌てて近づくと、家屋から救急隊員によって担架で運ばれる義母の姿が目に留まった。

「お義母さん!?」

 訳も分からずパニックになっている彼女の前を苦しそうに顔をしかめながら義母は運ばれていく。動揺を隠しきれずにいると、同じ平屋から義母と一緒に歩いていた男性が出てきて、彼女に声をかけてきた。

「あなたは小笠原さんのお知合いですか?」
「えっと、娘です!」
「娘さん!ちょうどよかった、じゃあ後はお願いします!」
「あっ、でも義理なんですけど…」

 彼女の言葉を聞き流し男性は義母のカバンや杖などを彼女に手渡した。
 何が起こっているのか、さっぱりであったが、彼女は動揺しながらも救急車に同乗し、病院へと向かった。

黒瀬リュウ ( 2020/04/08(水) 21:34 )