第二章「彼らは」
01
 その日、彼女は夫が衝動買いをしたゴールデン•レトリバー2匹を連れ、息子と共に散歩に出ていた。

 ベラ、ビケと名付けられた2匹は、想像していた以上に活発で、リードを引く力も強く、引き連れていると言うよりは引きずられていると言う表現が似合うような散歩だった。

 そんな2匹にあたふたと慌てふためく母を嘲笑うかのように、息子はケタケタと笑いながら隣を走っている。

 ようやく2匹のリードを引く力が弱まり、なんとか制御できるようになった時、偶然にも先を歩く義母の姿を見つけた。

 実はあの後、用事がある為、しばらくの間、山梨にいると言う話を義母から聞いた。どこで寝泊りするのかと尋ねると、駅前のホテルに泊まるのだと言う。すると呑気に散歩から戻ってきた夫が、だったらうちに泊まっていけばいいと言い出し、現在空いていた長女の部屋を義母に貸すこととなった。

 そんな義母がゆっくりと歩きながら、隣には同じぐらいの高齢の男性と共に歩いていた。


「あれ、ばあちゃんじゃない?」


 息子も祖母の存在に気づいたようで、犬の頭を撫でる手を止め、指を指した。


「そうね、隣を歩いてるのは誰かしら…?」


 そう言うと、息子はニタァと笑い、急に近くの建物の壁に隠れ出した。


「何してんのよ」

「後、追ってみようよ!」

「はあ?ダメに決まってるじゃない」

「いいじゃん、いいじゃん!ばあちゃん何してんのか、お母さんも気になるでしょ?」


 気にならないと言ったら嘘になるが、流石にプライバシーのことを考えると気が引けていた。

 だが息子はそんなことなど気にも止めず、どんどんと先に進んでいく。

 彼女は仕方なしとため息をつき、急に立ち止まって動かなくなった2匹の犬を引っ張りながら、彼らの後を追うことにした。

黒瀬リュウ ( 2020/04/06(月) 08:50 )