第一章「あの日」
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その日、手紙が届いた。鳴海は手紙の裏を返してみると、期待通りの文字がそこに記されていた。家に戻り、その封を開くと、以前と変わらぬ文字の羅列がそこに並べられていた。

 ―拝啓、鳴海一樹様。先日は突然のお手紙、失礼いたしました。実は最近、主人が全く家事の手伝いをしてくれなくて。その憂さ晴らしではないですが、誰かに想いをぶつけたいと思い、貴方へお手紙を書かせていただきました。酷い女ですね。お許しください。 齋藤飛鳥

 今回は僅かばかりの分量であったが、特徴的な丸文字に鳴海はふふっと微笑み、便箋を探して、ペンを手にとると、その返事を書き記し始めた。

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 その日、彼女は家でのんびりと過ごしていた。漫画家を生業としている夫はしばらく部屋に籠もりきっていたが、どこかへ出かけると一言だけ残し、家を後にした。
 夏休み中の二人姉弟の長女は先週から実家に泊まっている。母親を亡くしたばかりの従姉妹が気になるのだろう。そういう心遣いが出来るようになったのだと、母親として少し嬉しくも思ったりした。弟の方はというと、リビングのソファーの上で横になり、友達と通信ゲームに勤しんでいた。

「ほら、裕太。そろそろおばあちゃん来ちゃうから、ゲーム止めてお片付けして」
「あとちょっとだから」
「何回聞いたと思ってるの。ほら、早く片付けて」

 彼の周りを片付け始めると、「うるせえなぁ」と立ち上がって、冷蔵庫があるキッチンへと向かっていった。インターネット動画の配信者の口癖を真似しているのか、ここの所、口調が悪くなってきていた。
 息子を叱ろうとした時、家のインターホンが鳴り響いた。慌ててモニターを見に行くと、旦那方の母親がおめかしをした姿で立っていた。

黒瀬リュウ ( 2020/03/18(水) 17:45 )