02
その日、彼女は手紙を書いた。家計簿の記入などでペンを取ることは多々あったが、誰かに向けてメッセージを書くなど、十数年前の結婚式の招待状以来で、少し緊張しながら、ペン先を走らせた。
数日前、およそ20年ぶりに高校の同窓会に参加した。懐かしい顔ぶればかりだったが、彼らのシワや体型の変化から、思い出すのに時間がかかり、20年という歳月の長さを改めて実感させられた。
だが彼だけは一目見ただけですぐに分かった。それと同時にあの頃の景色が、走馬灯のように駆け巡って思い起こされてきた。
あの頃と同じように会場の端で、誰に声をかけるわけでもなく、一人静かにワインを嗜んでいる彼は、他のように体型が丸くなったわけでなく、毛量が少なくなっているわけでもなく、少し目尻にシワが出来ていたぐらいで、あの頃の風貌と変わりがなかったことに彼女は少し安堵した。
「あれ!?もしかして、飛鳥じゃない!?」
受付に一言伝言を残して、後を去ろうとした彼女の存在に気付いた一人の女性が、大きな声を発した。
それを機に会場にいたほとんどが彼女の存在に気付き出してしまった。
「あっ、いや、私は、その」
「久しぶり。丁度、あなたの話してたとこだったのよ!」
「同窓会の案内出しても、なかなか返事来ないから、来ないんじゃないかって心配しちゃったわよ。さあ、こっちこっち」
女性二人に背中を押され、会場の奥へと連れて行かれると、彼女の周りを多くの人が取り囲んだ。皆、元気にしてたのか。ますます綺麗になったと彼女のことを褒めては、手に持つグラスの中のお酒を一口飲んでいた。彼女は照れ臭そうに笑いながら、先まで案内された。
ふと先程の彼を目で探すと、彼もまたこちらの存在に気づいているようだったが、こちらまで近づくことはなく、少し離れた席でワインを一口飲んでいた。