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その日、手紙が届いた。いつもは郵便受けに入っているものといえば、頼みもしない宅配ピザの広告チラシばかりで、自分宛の手紙など久しぶりだった。
鳴海一樹はチラシの山に埋れた手紙を手に取り、裏側を見てみると、差出人の名前に目を見開かせた。と同時に、高校時代のすんと鼻を突き抜ける爽やかな香りが、あの頃の景色と共に思い出された。
アパートの階段を駆け上がり、部屋に入ってすぐ、徐に手紙を開いた彼は、誰に聞かせるわけでもないのに、そこに記された文面を口にし出した。
― ご無沙汰しています。先日お会いした時に頂いた名刺にこちらの住所が記されていましたので、一つ手紙を書かせていただきます。先日は久しぶりの再会にも関わらず、時間に追われて、大した挨拶もできず、申し訳ございませんでした。
随分と堅苦しい文面ではあったが、文字の柔らかさに、彼女の字であることは間違いないと鳴海は感じた。
― 実は最後に言っていた『約束』のことがどうしても思い出せないんです。一体なんのことだったのでしょうか。今度、お会いできた時に教えていただけたらと思います。主人に勘違いされると申し訳ないので、こちらの住所を書かないことをお許しください。それでは、お元気で。 斎藤飛鳥
久しぶりに見た彼女の文面は、あの頃と何も変わっていなかったが、"主人"という文字に少し心が締め付けられた。