第一章「あの日」
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 その日、彼女らのもとに手紙が届いたのは実に久しぶりのことだった。あれからしばらくして、返事が返ってこないことに少し不安を感じていた少女たちだったが、手紙が届いたときには、心を躍らせた。


 ―拝啓、齋藤飛鳥様。前回から少し時間が経ってしまったこと、お詫びいたします。仕事の方で少しバタついており、なかなかお返事を書けずにいましたが、今ようやく落ち着きを取り戻せたので、前回の続きをまた伝えさせていただけたらと思います。

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 古文研に入ってから、鳴海の限られた学校生活は色鮮やかなものへと変わっていった。人と関わることを諦めていた彼に高橋が手を差し伸べてくれたおかげで、彼の周りにも人が集まるようになっていった。
 同じ古文研の後輩の京子とは、帰り道が一緒ということもあり、研究会の活動が終わった後、二人並んで家路に向かうのが日課になりつつあった。
 その日も二人は沈みゆく夕日を背に、お互いが読んだ本の感想を話し合いながら、帰路についていた。すると突然、鳴海が話の内容とは関係のないことを彼女に問いかけてきた。

「そういえば、君のお姉さんってどんな顔しているの?」
「え…?」

 京子には二つ年上の姉がいた。同じ高校に通っており、成績は常に学年で一、二を争うほど優秀で、全校生徒の憧れの生徒会長まで勤めていた。
 そんな姉とは対照的な自分は、周りから比較されるのを恐れ、自ら姉の話題を口にするようなことはあまりなかった。
 しかし何故、急に彼から姉の話題が出てきたのだろう。恐る恐る、その理由を尋ねてみると、彼はこう答えた。

「いや、今日、体育館で三年生だけの生徒集会があったんだよ。そのときに壇上に生徒会長が上がってさ。隣に座ってた高橋から、それが君のお姉さんだって教えてもらったんだけど、何故かマスクをしていて、よく顔がわからなかったんだよ」

 それを聞いて、京子は少しホッとした。何か姉と自分を比べられてしまうのではないのかと、内心ドキドキしていたからだ。

「姉は、今季節外れの風邪を引いてるんですよ。変ですよね、こんな暑い時期に風邪なんて」
「そうなのか…、それはお大事に」
「いやいや、そんな重たいことじゃないんで!ただお気遣いいただいて、ありがとうございます」

 お互い変に気を使いあったことに笑い合いながら歩いていると、ふと彼女が立ち止まり、「そうだ」と呟いた。
 鳴海は立ち止った彼女を振り返ると、どうしたのと尋ねた。

「よかったら今からうち来ます?」

 思いもしなかった誘いに、鳴海は思わずえっと変な声を漏らした。

黒瀬リュウ ( 2020/03/31(火) 22:24 )