01
小雨が降りだした。彼女は一度、家に戻り、傘を開いてから、再び家の前に立った。
「あぁ、いた。こっちこっち!」
彼女の呼び声に、一人の少女が駆け足で近寄ってくる。近づけば近づくほど、少女の顔は母親そっくりだと改めて認識させられた。
二人は一緒に家に入ると、大広間に向かい、何列かに並べられた小さな椅子の最前席に座った。
「数珠持ってる?無かったら、おばちゃんの貸そうか?」
「いや、大丈夫です」
力なくボソッとつぶやいた少女の声に、やはり立ち直るには時間がかかりそうだと、彼女は察した。
生まれて初めて自分が参列した葬式は、お世話になった中学の教師の葬式だった。そのときはあまり心情に変化はなかったが、やはり横たわる教師の顔を見たときは、心に来るものがあった。だが、少女の場合は自分とは違う。
彼女の初めては自分の身内。しかも自分の母親の葬儀だった。
長々と木魚を一定のリズムでたたきながら、お経を唱え上げる坊主の向こうで眠る仏のことを思いながら手を合わせていた彼女は、ふと目を開け、隣に座る少女の顔を見ると、彼女も同じように手を合わせながら、瞳を閉じ、静かに涙を流しているのが分かった。