Les gens perdus 〜終点〜
第一章
04
楠木探偵事務所。そこが彼が勤める場所。先代の楠木総太郎(ソウタロウ)から受け継いだこの事務所は、町の人々から大変頼りにされ、活気が賑わう事務所だった。
だが4年前、不慮の事故により、調査中だった総太郎は命を落とした。
彼が生前残していた遺言に、事務所の存続とその後継者が記されていたため、息子である楠木奏太(カナタ)がこれを引き継いだのであった。

事務所にようやく戻ってきた奏太は新しい鍵を錠に差し込んだ。今度こそ正しく開けようと、鍵を回したとき、再び彼は違和感を覚えた。
鍵を回した感覚が非常に軽い。鍵は彼が入る前に、すでに開けられていたのである。
誰かが中にいるのか。そう疑った彼は、慎重に押戸をゆっくりと開けた。
事務所の中は見通しは良くなっている。物陰にでも隠れてない限り、誰がいるか、大体は把握できる。
だが、誰かがいるという気配は全く感じられなかった。大家が間違って開けてたのかとそう思い、ほっとしていると、突然背後から声をかけられた。

「おはようございます」
「うわっ!」

驚いた奏太は思わずその肩をすくめ、後ろを振り向いた。そこには黒淵フレームの眼鏡をかけたストレートヘアーの女性が立っていた。

「さ、齊藤さん。おはようございます。えっ、どうやって中に…?」
「鍵が変わって困っていたところに、大家さんが来てくださって開けてくれたんです」

大家の自分の時との対応の違いに、奏太は心の中で小さく舌打ちをした。
齊藤飛鳥、楠木探偵事務所の事務員として働いてくれている女性である。彼女は先代の総太郎の代からこの事務所におり、てきぱきと仕事をこなすが、無口で静かなその雰囲気に、奏太は以前から少し苦手意識を抱いていた。
彼女が自分の席に座ったが、事務所に流れた微妙な空気感を何とかしようと、彼はなんとか話題を振り絞った。

「あっ、コーヒー、飲みます?『nasita』のマスターから良い豆を貰ったんですよ」
「いえ、結構です。コーヒー飲めないんで」
「あっ、それはすみません…」

再び流れた微妙な空気に、仕方なく一人分のコーヒーを淹れた。
コーヒーカップを手に、所長席に腰を下ろした彼は、ブラインドの隙間から溢れてくる日の光に目を細めながら、一口啜ると、香ばしく程よい苦味が口の中に広がっていった。
よく通う喫茶店のマスターから頂いたのものだが、彼が絶賛していた理由がよく分かった。

「今日も良い天気ですねぇ」

何気なく呟いた彼の一言に、飛鳥はデスクワークを行いながら、冷たい口調で返事をした。

「でしたら、外回りにでも向かわれたらどうですか?」
「えっ…?」
「総太郎さんはよくされてましたよ」

偉大な父親の名前を出されると、反論しようがなかった。

■筆者メッセージ
と、いうわけで最初のメンバーは飛鳥ちゃんになります(笑)
冷たい無機質なキャラクターというのが似合いそうだったので、彼女にしてみました。

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黒瀬リュウ ( 2019/01/30(水) 12:34 )