第一章:Beginning(始まり)
03
 西城の一日は私物のガベルの手入れを行うことから始まる。大学時代に法曹を目指す物の心構えとして、父親からアンティーク物のガベルをもらったことから、コレクションが始まった。だが10年前に年上の女性と結婚した際に、そのガベルを誤って捨てられそうになったことから、彼はコレクションを職場に置かざるを得なかった。

「失礼します」

 綺麗に拭き終えたガベルを棚に飾っていると、新人研修の時に世話をした沖田征士カが律儀にドアをノックしてからやってきた。この日より本部の刑事部に所属し、西城の部下として働くことになっていた。
 ノックに応え、ドアを開け出迎えたのは、西城の立会事務官の吉澤だった。

「あ、沖田検事ですね。立会事務官の吉澤です」
「沖田です。よろしくお願いします」
「どうぞ、中へ」
「失礼します」

 初日と言うこともあってか、沖田は緊張しているのであろう。両手の拳がぎゅぅっと握りしめられていることに西城は気付いた。

「よう、久しぶりだな」
「随分ご挨拶が遅れてしまって、申し訳ございません」
「同じ職場で働いていても、なかなか顔を合わせることは少ないからな」
「ありがとうございます。いや、それにしてもガベルを集めてらっしゃるとは知りませんでした」

 沖田はガベルコレクションの棚を一瞥し、その瞳を輝かせていた。自慢のコレクションでそのように喜んでもらえると、なんだか自分のことのように嬉しくなるものである。

「なぜ日本の裁判でガベルが使われないのか、その理由分かるか」
「さあ。日本的な秩序とモラルの問題からでしょうか?」
「お前らしいな。まあ座れ」

 西城に促され、沖田は応接用のソファーに腰を下ろした。

「俺が今担当しているのは、本部係といって事件が発生すると帳場に出向いて、捜査本部と共同して捜査を行い、事件の解決へと導く仕事だ」
「伺ってます」
「事件を法曹としての視点から証拠を見て、裁判で適正な判決を得るに足りる証拠が収集されているかどうかを見極め、被疑者を検挙すべきかどうかを警察と共に慎重に判断するのが俺の仕事だ。君にはそのサポートに就いてもらいたい」
「西城さんの下で働かせてもらえるだなんて、光栄です」

 目をキラキラと輝かせる新人検事に、西城はクスリと笑った。

「だがお前は自分の信念を曲げないタイプだからなぁ。適当に厄介者でもぶつけて、その角を緩めてやるよ」
「えっ、自分はそんな風に見られてたんですか…?」

 驚きを隠せない沖田に西城はそっと耳元で囁いた。

「人生最大のテーマは『即断・即決』だろ?」

 図星を突かれたのか、まさに鳩が豆鉄砲を食らったように、目を丸くした沖田の表情に西城は笑みを浮かべた。

■筆者メッセージ
さてさて、皆さんが求めている作品って今はどんな感じなんですかね?
やっぱり坂道さんかな?
私はそこら辺に関しては無知なので、皆さん教えてくださると助かります…(苦笑)

作品に関するご意見やご感想、その他等々のコメント、お待ちしております。
黒瀬リュウ ( 2018/10/10(水) 15:53 )