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そんな彼女が唯一、校舎に足を運ばせたときに、心が躍らせる存在がいた。
玲奈がいる一年一組の担任である内藤青志だ。
玲奈とは年はおよそ十ばかり離れていると聞いたが、どこか幼げなルックスで、だが少し頼りなさげな感じが、彼女の中の母性本能をくすぐらせていた。
彼に会うことこそが、学校へ通うことへの今の楽しみ。且つ心の支えでもあった。
「先生」
廊下で見かけた彼の背中に呼びかけると、男はゆっくりと振り返り、玲奈の姿をとらえた。
「あっ、加藤さん」
「こんばんわ、先生」
「こんばんわ。1カ月ぶりですね」
「うん。映画の撮影でしばらく来れなかったんです」
彼の横にぴったりとくっついた玲奈は、嬉しそうに頬を緩ませながら、その横を歩いた。