08
それからというもの、太輔へのいじめは必要以上に続いた。
クラスの頂点だった者が突然の最下層への降格に、他クラスも驚きを隠せてはいなかったが
女王中井りかが根回しをし、他のクラスからも彼はいじめを受けるようになっていった。
俊哉は何とかして彼を助けたいと思ってはいたが、耳元で囁かれた彼女の低い声が今も忘れられず、恐怖心が彼の心を包み込んでいた。
「太輔」
人通りの少ない帰り道、ようやく彼に声を掛けることが出来た。俊哉の声に振り向いた彼の姿は、憧れを抱いていたあのときの輝きは失われていた。
「おう、俊哉」
「お前、大丈夫か・・・?」
「大丈夫、心配すんな。そんなことより、俺と一緒にいると、お前もいじめられるぞ?」
「太輔・・・」
彼は笑顔を見せたが、その頬はかなりやつれて、無理に笑っているようにしか見えなかった。
何とかして彼をこの地獄から助け出してあげたい。そう思っていた矢先のことだった。
翌日、中井に呼び出され、俊哉は出入りが自由な学校の屋上へと向かった。
「何、話って・・・」
「あんたにさ、お願いがあるの」
そういって笑顔で振り返った彼女の姿は、ただの悪魔の姿にしか見えなかった。
「あの男をこの学校から追放したいから、あんたもアイツをいじめてほしいんだぁ」
「な、なんだって・・・」
笑顔を固まらせた姫はゆっくりと俊哉に近づいてきた。
「だってぇ、あんたってアイツの親友なんでしょう?親友からいじめられたら、さすがのアイツも心えぐられると思うんだぁ」
「そ、そんなことできるわけないだろ!」
「ふぅん、そんなこと言うんだ」
反論を返すと、彼女の笑顔は固まり、突然現れた同じクラスの横村渉と加賀健永とに、腕を掴まれ拘束された。
彼らも姫を取り巻く親衛隊の二人で、ボディーガードのような存在であった。
「じゃあ、お前も死んじゃえよ」
彼女の一言で、腕を掴んでいた二人が強引に俊哉を連れ出し、屋上の端ギリギリまで追い込んだ。
彼の視界に入ってきたのは、見下ろされる学校の景色で、真下のコンクリートブロックがよく見えていた。
「や、やめて!助けて!」
「じゃあ、あんたもいじめ側に入るよねー?そしたら、カーストのランク一つ上にしてあげてもいいよ」
恐怖心に襲われながらも、彼は親友の顔を何度も頭に思い浮かべた。
小さい頃からいじめられたとき、いつも救ってくれたヒーローは彼だった。
心優しい彼に、何度も心を救われたこともあった。
「は、入ります・・・」
「ほんとー?よかったぁ。じゃあ、離してあげていいよ」
彼女の一言で、二人は俊哉の腕を開放し、三人揃って校舎へ戻っていった。
一人取り残された彼は、その場にうずくまり、大粒の涙を大量に流した。