10
久々に再開した親友の姿は、あまりにも変わり果ててしまっていた。
目の下には大きな隈ができており、筋肉質だった体もすっかり痩せ細っていた。
彼の姿を見て、俊哉は心がぎゅうっと締め付けられる思いだった。
「太輔、すまない」
彼と顔を合わせるなり、俊哉はまず頭を下げた。
彼に殴られても仕方がない。その覚悟であったが、返ってきたのはいつもの優しい声だった。
「仕方ねえよ、きっと中井に脅されたんだろ?」
「まあ・・・」
「お前を巻き込むわけにはいかないよ」
「だけど、元はといえば俺のせいで・・・!」
自分自身を否定しようとした俊哉を、太輔は目で制した。その眼はまるで「それ以上は言うな」と強く訴えているようだった。
「悪い・・・」
「謝るなって、お前は仕方がないんだから」
「ありがとう、太輔」
「いや、俺もお前のことを守れてよかったって、心から思えてるんだ」
「これからどうするんだ?」
学校に登校しないことを一番案じていたのは俊哉自身だった。
「とりあえず今はバイトしてる。朝と夜で」
「家族のことが、あるもんな」
「まあだから、朝も働けてラッキーかなって。ポジティブに考えてるよ」
ポジティブでいいのかと少し疑問に思いながらも、彼がそれでいいならと俊哉は小さく頷いた。
「だけどさ、やっぱり高校には行けって。母さんが」
「お母さん、まだ体調優れないのか・・・?」
彼の母親は胃癌で入院を余儀なくされていた。
「見舞いに行ったら、一発でバレたよ。学校行ってないこと」
「でも、今行くと、また中井から・・・」
「頑張るよ。兄弟たちも学校に行ってるんだ。兄ちゃんが行かないでどうすんだって話だよ」
「そうか、なんか俺に出来ることはないか」
そう尋ねると、太輔は優しい笑顔で首を横に振った。
「お前はお前のために生きろ。人のために生きるのは、俺だけでいい」
そう優しく微笑んだ彼の瞳には、少し以前のような輝きが取り戻されていたように感じた。
その輝きにホッとした俊哉は、固い握手を親友と交わし、その夜は分かれることになった。
そしてそれから二日も経たない間に彼の耳に飛び込んできたのは、太輔が屋上から飛び降りたということであった。