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部屋の明かりは消され、外の雨音が鳴り響く中、ドアから漏れる廊下の明かりだけを頼りに、杏奈はゆっくりと章一の顔に同じそれを近づけ、彼の頬に唇をつけた。
僅かな光から彼の表情が曇ったままであることに気づいていたが、彼女はそのまま章一の顔中にキスをした。
今だけでいい。このときだけでもいい。長い人生の中で、この一瞬のひと時だけでも、彼を感じていたかった。
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部屋を追い出されてしまった栄介たちはというと、行く宛もないため、NEW SHIPに向かい、マスターに無理を言って、一晩だけ店内で寝させてもらうことになった。
どうしてかと訳を聞かれたが、ぎこちない笑顔でそれを濁し、彼らの表情を見た林田もそれ以上は聞いてこなかった。
三人は店の椅子に寝転がったものの、人が座るためのものであって、とても寝心地のいいものとは言えなかった。
「杏奈ちゃん・・・、明日には帰ってもらおうね」
「・・・、"当たり前田のクラッカー"・・・」
栄介のつぶやきに、由依が元気なさげに答えた。