第七章:すれ違う理想と現実のはざまで
03
 部屋の明かりは消され、外の雨音が鳴り響く中、ドアから漏れる廊下の明かりだけを頼りに、杏奈はゆっくりと章一の顔に同じそれを近づけ、彼の頬に唇をつけた。
 僅かな光から彼の表情が曇ったままであることに気づいていたが、彼女はそのまま章一の顔中にキスをした。
 今だけでいい。このときだけでもいい。長い人生の中で、この一瞬のひと時だけでも、彼を感じていたかった。

_____________________________________

 部屋を追い出されてしまった栄介たちはというと、行く宛もないため、NEW SHIPに向かい、マスターに無理を言って、一晩だけ店内で寝させてもらうことになった。
 どうしてかと訳を聞かれたが、ぎこちない笑顔でそれを濁し、彼らの表情を見た林田もそれ以上は聞いてこなかった。
 三人は店の椅子に寝転がったものの、人が座るためのものであって、とても寝心地のいいものとは言えなかった。

「杏奈ちゃん・・・、明日には帰ってもらおうね」
「・・・、"当たり前田のクラッカー"・・・」

 栄介のつぶやきに、由依が元気なさげに答えた。
BACK | INDEX | NEXT

■筆者メッセージ
さてさてと、秋があっという間にやってきましたね。
『○○の秋』と称されることが多いですが、皆さんにとってはどんな秋がありますか?

ちなみに最近の私は『芸術の秋』ということで、本であったり映画などをよく観に行きますね。

作品に関するご意見やご感想、その他等々のコメント、お待ちしております。
黒瀬リュウ ( 2017/09/21(木) 11:10 )