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お盆が明け、夏も少しずつ終わりを告げてきた頃、食堂いりやまでは大介が一人、昼の営業に向けて仕込みをしている所であった。
黙々と仕込みを続けていると、岩田商店の裕二が米の配達にやってきた。
「毎度、岩田商店です。お米さ持って来たっす」
「ほい、ごくろうさん」
いつものように10キロの米を運び終え、伝票にその日の卸した数を記入しながら、裕二は、調理場の奥にかけられている割烹着を一瞥しながら、大介に話しかけた。
「杏奈さん、最近見ねえですね」
すると大介は黙ったまま、表情を強張らせ、包丁を乱暴におろして、豚肉の筋を切っていた。
彼の様子から見て、ここ数日、彼女が家に帰ってこないという噂は本当だったのだろう。この様子では店も手伝っているとは思えない。
何か自分にできることはないだろうか。そう思った裕二は二人の会話のきっかけにでもなればと、彼女から借りていた雑誌をテーブルに置いた。
「こいつぁ、杏奈さんさ渡してけらっしゃい。ずぅっと借りてばっかりで」
だが大介はちらりと雑誌を見ただけで、何も答えることなく、黙々と仕込みの準備を続けていた。
裕二は駄目だったかと小さくため息をついて、再び厨房奥の割烹着を見つめた。