08
その頃、竜三はひとり、おでんの屋台で晩酌を楽しんでいた。屋台の主人が流しているラジオから聞こえる軽快なジャズソングを耳にしながら、思いを馳せていた。
「『人生は人を欺かない』」
「へっ・・・?」
「『人生は一度も人を欺かなかった』」
「なんですか、それ」
おでん屋の主人が不思議そうにこちらを見ながら、酒をグラスに並々と注いでいた。
「フランスの有名なおっさんが言うとったんや」
主人はへえとだけ返し、竜三にグラスを渡した。竜三はそれをくいっと飲み、一息ついた。するとちょうどそこに、栄介に荷物を渡した帰り道の章一と由依が屋台に入ってきた。彼らはお互いの目を見合わせると、そっと竜三の隣に黙って座った。