07
国鉄の駅員がメガホンを手に、徹夜で特急券の購入を並んで待つ客人たちに案内をしていた。
栄介は章一たちが持ってきてくれた茣蓙を敷いて、その上に寝転がっていた。
「東京の病院なんかに、来るがじゃなかった」
流れるように目の前を歩き去っていく人々の脚を見ながら、栄介はボソッと一つぼやいた。咲良は柱の壁に背中を付け、差し入れでもらったおにぎりを小さな口で食べながら、兄の言葉に答えた。
「母ちゃんは、来てよかったって言うとったよ」
「ほんとけ?」
「栄介にこんな親孝行してもらえるって思わんかったって」
妹の言葉をただ黙って聞きながら、栄介は起き上がって、残っていたもう一つのおにぎりを手に取った。恐らく由依が作ってくれたのであろう。いつも彼女が握り飯を作ると、まん丸で大きなそれが出来上がる。栄介は、それを一つ口にした。
「ねえ、兄ちゃん。母ちゃんも私も知っとるよ?」
「何を?」
「入院の時、駅から病院まで母ちゃんを運んでくれた人らちのこと。母ちゃんがね、病院の看護婦さんに聞いたんやって。親切に運んでもろうたお礼がしたいから、名前を教えてくれんけっいうて。そしたら、そんな人たちはこの病院にはいませんって。あんときの人たち、兄ちゃんのお友達やろ?」
栄介は握り飯をゆっくりと降ろして、罰が悪そうに答えた。
「母ちゃん、怒っとったやろ?」
「ううん。いい友達もって、栄介は幸せ者やって。母ちゃん、泣いとった・・・」
「そうか・・・」
妹の告白に、栄介は返す言葉が見つからず、ただただ母の想いを目を閉じて感じていた。