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NEW SHIPにいた竜三は"踏絵黙示録"の表紙を見つめながら、万年筆の筆先に何度も何度もインクを付けていた。かれこれ三時間はこうしている。
ウエイトレスの込山榛香が10回目の水をグラスに入れ替えに来た。替えに来る度に、ページが表紙絵から一枚も進んでいないことに、彼女は気づいていたが、急かすことなく、竜三の好きなようにさせていた。
「あっ・・・、ははっ、最後がなかなか決まらんわ・・・」
「頑張ってください」と笑顔を見せた榛香は笑顔を見せ、店内に入ってきた新規の客の対応に向かっていった。
彼女の背中を見つめていた竜三は、表紙を捲り、白紙のページをぺらぺらと捲り、一つ溜め息をついていた。