第四章:夢を追う若者たち
10
 宴会が始まり、美音が用意してくれたつまみを食べながら、一番酒を飲み進めていたのは、意外にも章一だった。
 どうして彼がこんなにも飲んだくれているのか、皆は疑問に思っていたが、彼の訳を聞くなという表情を察して、誰もその理由を尋ねなかった。

「例えばこのひと夏だけでもいい。お金のことは気にしないで、互いの創作活動に精を出すといった体験が、今の我々には必要なの!」

 相も変わらず熱弁を続ける栄介に同調したのは、意外にも飲んだくれていた章一であった。

「そうだよ!ほかのことは何にも考えないで、歌の勉強だけに精を出さなくちゃ・・・、ダメなんだよ!」

 何かに対して怒っているようであったが、本人が訳を語りたがらないので、誰も尋ねることは出来ずにいた。

「そんなこと言うても、七万はあるんやけどなぁ・・・」
「四人でひと夏は足りなくない・・・?今月残りと、八月九月いっぱい。二か月半は無理だよ」
「無理無理、一日二食にしたかて」

 否定的な意見を口にしたのは由依と竜三。
 しかしそれまでずっと黙って話を聞いていた裕二が、ついにその口を開いた。

「出来ます!きっと出来ます!」
「えっ・・・?」
「皆さんが本気さなれば、今の心ん中さある自由さ求める気持ちが本当であれば、きっと出来る思うんです!きっと出来ます!おら、皆さんの話さ聞いて、本当に感動しますた!」

 熱く語りだした彼にみな口を開けていたが、栄介は酔っぱらっているからか涙腺が緩んで、涙をぽろぽろと零していた。

「裕二君・・・、ありがとう・・・!」

 なぜか栄介は彼に握手を求め、しっかりと手を握っていた。

「じ、自炊すれば・・・、なんとかやれるでしょ・・・」
「自炊・・・?」

 章一の言葉に栄介、由依、竜三の三人が首を傾げた。
 その様子を見た美音は驚いている様子だった。

「えっ、毎日毎日外食だったんですか・・・!?」
「いや・・・、自炊はなぁ・・・?」

 苦笑いを浮かべた竜三に、自称芸術家たちはそろって苦笑いを浮かべた。
 だが章一だけは表情を変えず、熱く語った。

「やんなきゃ駄目だって!このままじゃ駄目なんだって!ちゃんとやれよ!」

 美音は章一が三人を怒っているように見えたが、同時に自分自身にも喝を入れているように見えた。

■筆者メッセージ
早いもので、もう11月なんですね。
おそらくテレビ収録等では大晦日特番、あるいはもう「明けましておめでとうございます」なんて言ってるところもあるんでしょうね。
一年が過ぎるのはあっという間すぎて、もう怖さしか感じなくなってきました(笑)

さてさて、本編ではいよいよ自称芸術家たちが己の作品と向き合う時期がやってきました。
彼らはこれからどうなっていくのか、楽しみにしていただけたらと思います。

作品に関するご意見やご感想、その他等々のコメント、お待ちしております。
黒瀬リュウ ( 2016/11/11(金) 09:51 )