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宴会が始まり、美音が用意してくれたつまみを食べながら、一番酒を飲み進めていたのは、意外にも章一だった。
どうして彼がこんなにも飲んだくれているのか、皆は疑問に思っていたが、彼の訳を聞くなという表情を察して、誰もその理由を尋ねなかった。
「例えばこのひと夏だけでもいい。お金のことは気にしないで、互いの創作活動に精を出すといった体験が、今の我々には必要なの!」
相も変わらず熱弁を続ける栄介に同調したのは、意外にも飲んだくれていた章一であった。
「そうだよ!ほかのことは何にも考えないで、歌の勉強だけに精を出さなくちゃ・・・、ダメなんだよ!」
何かに対して怒っているようであったが、本人が訳を語りたがらないので、誰も尋ねることは出来ずにいた。
「そんなこと言うても、七万はあるんやけどなぁ・・・」
「四人でひと夏は足りなくない・・・?今月残りと、八月九月いっぱい。二か月半は無理だよ」
「無理無理、一日二食にしたかて」
否定的な意見を口にしたのは由依と竜三。
しかしそれまでずっと黙って話を聞いていた裕二が、ついにその口を開いた。
「出来ます!きっと出来ます!」
「えっ・・・?」
「皆さんが本気さなれば、今の心ん中さある自由さ求める気持ちが本当であれば、きっと出来る思うんです!きっと出来ます!おら、皆さんの話さ聞いて、本当に感動しますた!」
熱く語りだした彼にみな口を開けていたが、栄介は酔っぱらっているからか涙腺が緩んで、涙をぽろぽろと零していた。
「裕二君・・・、ありがとう・・・!」
なぜか栄介は彼に握手を求め、しっかりと手を握っていた。
「じ、自炊すれば・・・、なんとかやれるでしょ・・・」
「自炊・・・?」
章一の言葉に栄介、由依、竜三の三人が首を傾げた。
その様子を見た美音は驚いている様子だった。
「えっ、毎日毎日外食だったんですか・・・!?」
「いや・・・、自炊はなぁ・・・?」
苦笑いを浮かべた竜三に、自称芸術家たちはそろって苦笑いを浮かべた。
だが章一だけは表情を変えず、熱く語った。
「やんなきゃ駄目だって!このままじゃ駄目なんだって!ちゃんとやれよ!」
美音は章一が三人を怒っているように見えたが、同時に自分自身にも喝を入れているように見えた。