09
湯船に浸かっていたこともあってか、銭湯を出た後も熱が冷めない六人は栄介の部屋で酒を飲みながら、再び語り合うことになった。
狭い部屋に六人も入るものかと栄介は不安であったが、熱くなりだしている彼らを見て、深く気にすることをやめた。
酒の使いには章一が向かわされた。他五人は先に帰ってつまみを用意するという。どうやら美音がちょっとした手料理を用意してくれるらしい。
心を躍らせながら、酒瓶を二本、両手に持って帰っていると、ふとした脇道に見覚えのある背中が見えたような気がしたので、思わず立ち止まった。
何やら女性が男性のネクタイを締めているようであったが、女性が背中を向けているため、顔がわからない。
気になってずっと見ていると、男性が先にこちらに気づき、「何か用か」と尋ねてきた。
「いいえ、なんでもないです」、そう言って立ち去ろうと思ったとき、背中を向けていた女性がようやくこちらを向いて、章一の体に電気が走った。
そして何事もなかったかのように、顔色一つ変えないまま、走り出した。
彼の行動が気になった男性は女性に知り合いかと尋ねた。
「うん・・・、まあ・・・」
章一は訳が分からないまま走っていた。あそこで男性と一緒にいたのは紛れもなく杏奈だった。
どうして彼女があそこにいたのかはわからない。そしてどうして男のネクタイを締めていたのか。
よほどの親密な関係でなければ、ぴったり体をくっつけてまでネクタイを締めたりなどしないはずである。
少しパニックになりながら、章一は家へと戻っていった。