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中に入ってみるとちょうど人が少なく、ほぼほぼ貸切状態だったため、湯船につかった後も栄介は隣の女子風呂にも聞こえるように大きな声で話を続けた。
「誤解しないで聞いてほしい。俺だって『自由』を簡単に考えてるわけじゃないんだ。自分の描く漫画に対してだけは、永遠に純粋でありたいんだよ」
湯船につかっていた由依は黙って隣から聞こえてくる声に耳を傾けていた。
「ところが自分が本当に書きたいものは、売れん。全くと言っていいほど。逆に金稼ぎに走ると、自分の本当にやりたい仕事の時間は無くなる」
彼の話に耳を傾けていた竜三は、ゆっくりとその口を開いた。
「せやから問題は簡単やねん。金さえあればすべて解決するんや。金さえはじめにあれば」
「そこさ。まとまった金さえあれば、飲み食いできる余裕さえあれば全部解決なんだよ。俺たちは自由を手にすることができるんだ。今がそのチャンスなんだよ!」
遅れて湯船に浸かってきた美音も栄介の熱弁をまるで自分のことのように受け止めながら、話を聞いていた。
それぞれが彼の言葉を真摯に受け止め、そして『自由』とはなんなのか、己の答えを導き出そうと考えていた。