06
その夜、栄介の部屋に久々に四人全員が集った。だが、その部屋の様子は決して明るいわけではなく、それどころか家主である栄介本人は怒りに震えていた。
「わずか一週間で二万も散財したの!?」
由依の絵が売れた。最初にその話を聞いたときは栄介も自分のことのように喜んでいた。だが売れたお金四万円のうち、彼らの手元に残っていたのは一万円が一枚と千円札が数枚あるだけだった。
「別に飲み食いだけに使うたわけやないし・・・」
「扇風機とかズボンとかギターとか、質屋から出してきたからね。ほら、塵も積もればなんとかって」
栄介の説教に竜三と章一が反論をした。由依も何かを言いたげであったが、各々栄介と目線を合わさないためか、それぞれの制作に勤しんでいた。
彼らはそうは言ったが、部屋の隅に置かれてある酒瓶の本数を見て、栄介はやはり彼らは怠惰な生活を送っていたのだなということを思い知らされた。
ちっとも反省の意思を示していない様子の彼らに、栄介は一つの封筒を見せつけた。
「なんや、それ」
「苦闘、十と七日間。不眠不休で稼いできた報酬が、これだ!」
封筒の中から栄介が取り出したのは、聖徳太子が描かれている札の束であった。
「ええっ!?」
「ちょっ、それ貸してくれ!」
竜三は奪い取るように栄介の札束をとって、それを一枚ずつ机の上に並べていった。
ほかの二人も食い入るようにその様子を見つめていた。
「一枚、二枚・・・、すごい!一万円札が五枚もある!」
「ほんであと四千円や!」
「初めてだよ、聖徳太子をこんな団体で見たの・・・」
栄介は驚愕の表情を浮かべている彼らから、金を取り返した。
「うわっ、何するんや!」
「これは僕が稼いできた金だ。僕が稼いできたこの金と由依ちゃんの一万六千円を足して、とにかく少しだがまとまった金が手に入ったわけだ。これを元手に、僕は今日から生活の立て直しをしたいと思う。意義はないね?」
「意義は・・・、ないけど・・・」
「こんだけの金を前にして、固いこと言うのもったいないで!」
「これから新宿にでも繰り出して、たまにはパァッと・・・」
章一がそう提案しかけたが、NEW SHIPでも見た栄介の冷たい目を見てしまい、あわてて口をつぐった。
「言いたかないが、諸君らは金を稼ぐということがどういうことか全く分かってない!」
痛い所を突かれた彼らは、栄介の言葉に何も返せなかった。
そんな三人を横目に、栄介は話を続けた。
「それと“自由”についてもだ」
「はっ、自由・・・?」
三人が目を丸めていると、栄介は照れ臭そうにしゃべった。
「とりあえずさ、風呂行かない?」
「えっ・・・?」
「もう、一週間も入ってないんだ・・・」
そう言って笑う彼に、三人は少しだけ距離をとった。