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数日後、鮫島氏の邸宅の前で、栄介は天を仰いで見つめていた。
何しろ青空を見るのは数週間ぶりのことであったが、本人の感覚では何年も監獄の中に入っていてようやく出所できた囚人のような気分であった。
しばらくぼぉっとしてから、栄介はそばを歩いていたランニングシャツ一枚姿の少年たちを呼び止めた。
「君たち、今日は何日か教えてくれるかい・・・?」
「はい、今日は七月二十一日、今日から夏休みであります!」
「ああ・・・、どうもありがとうね」
栄介に敬礼をした彼らは『少年探偵団のうた』を口ずさみながら、虫取り網を手にその場を立ち去った。
そんな彼らの姿をぼんやりと見つめてから、栄介は頭の中が真っ白のまま、ゆっくりと歩き出した。
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その頃、NEW SHIPでは竜三、由依、章一の三人が大量の注文をして、食べる飲むを繰り返していた。
そんなに注文して大丈夫なのかとマスターに心配されたが、先日の由依の絵が売れた時の金がまだ残っていたため何の問題もなかった。
「うまっ、マスター!ナポリタン最高!」
「おう、ありがとよ」
「ふふっ、皆さん本当おいしそうに食べますね」
ウエイトレスの榛香は三人の食べっぷりに思わず笑っていた。
「いやぁ、やっぱり坂口安吾は最高やで」
「“日本人は堕落して生きねばらない”でしたっけ?まさにその通りですよね〜」
竜三の言葉にサラダを頬張りながら、由依が同調した。
「こみちゃん読んだことあるん?堕落論」
竜三にいきなり話を振られた榛香は頭を回転させ、彼の言葉の意味を何とか汲み取ろうと頑張った。
「ああ、“駄目なラクダの話”ですか?」
彼女の素っ頓狂な答えに三人は声をそろえて笑った。
そして再びテーブルの上に並ぶ食事に手を付けたとき、榛香が窓の外を見て思わず「あっ」と声を漏らした。
三人は顔を上げ、彼女の視線の先を追うと、栄介がこちらをじいっと見つめていることに気付いた。
その眼はこれまで見たこともない何とも冷たい眼差しで、目を合わせるのも辛くなるほどだった。